2025年の医療のあるべき姿を定める「地域医療構想」づくりが進んでいる。政府が2015年6月にまとめた報告書では、2025年までに今の病床数(ベッド数)の約1割にあたる16万床~20万床程度を削減できると公表した。このまま高齢化が進むと、いわゆる「団塊の世代」が75歳の後期高齢者となる2025年には、病床が17万床ほど足りなくなる見込み。政府は入院患者を在宅や介護施設に移転させ、病床を減らすことで医療費を削減したい考えだ。

政府が定めた「病床1割削減目標」を受け、地方は困惑しているという。政府が定める現行の基準病床数は全国一律の算定式によって決められるため、病院の治療実績などは考慮されず、都道府県の裁量の余地がない。政府は病床で長期療養している高齢者を在宅や介護施設に移転するよう促してきたが、まだ在宅の医療体制や介護施設の環境が整っていない。病院側は、病床を削減すると経営が厳しくなり、従業員の雇用を守れなくなるなどの理由で削減に反発している。

病床規制は新しい病院の参入規制

病床規制には、病床過剰地域への新たな病院の参入を制限し、地域間での病院数が偏らないようにする狙いがある。内閣府・規制改革会議は「病床規制は、意欲があって質の高い病院の新規参入を制限し、質の劣る病院の既得権化を生んでおり、競争による質の向上を妨げている」と指摘する。

確かに、日本の人口千人当たりの病床数は13.8床であり、これはフランスの2倍以上、イギリスやアメリカの4倍以上にあたる。また、日本の平均在院日数は33.2日で、ドイツやイギリスの3倍以上、アメリカの5倍以上だ。(資料:「OECD Health Data 2010」)日本では国が医療の価格を一律に定め、病院が行った医療行為が多ければ多いほど診療報酬を受け取る「出来高払い式」の制度があるため、過剰医療になりやすい。今は一部「定額払い式」に切り替わっているが、依然として諸外国よりも手厚い医療の傾向がある。

「神の見えざる手」によって病床数も適正化する

「国民皆保険」を実現し、どこの病院に行っても同じレベルの医療サービスを受けられる日本のシステムは大変ありがたいものだが、病院間に差が生まれにくくなっている。政府が診療報酬を一律に定めるのではなく、治療実績の高い医者とそうでない医者で差が生まれるような市場原理を医療にも取り入れる必要がある。そうすれば「神の見えざる手」の法則が働き、病床数もおのずと適正化されるだろう。

さらに、長い目で見た医療費問題解決のためには、一人ひとりが病院だけに頼るのではなく、家族や地域のつながりを深め、コミュニティを生かした医療や介護の環境整備を行っていくことも必要になってくる。(真)

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2015年5月3日付本欄 給料の9%は医療保険? 医療費削減には国民と医療機関の「自助努力」が必要

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2015年6月号記事 病院は黒字化できる - 幸福実現党の設計図 2025 第2回

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