財政支援の条件としての緊縮財政策の受け入れを巡りギリシャで行われた国民投票は、反対が賛成を大きく上回った。「反緊縮財政」を掲げて今年1月に就任したチプラス首相は5日、「民主主義の勝利だ」と宣言。6月末から続いている銀行預金引き出しの制限などを終わらせる意向を示した。
7日には欧州各国の首脳が集まって会談し、ギリシャ問題への対応を検討する予定だ。ギリシャ政府は今後、投票結果を盾にして欧州連合(EU)との交渉に臨み、緊縮財政策の緩和を求める見込みだ。EUはギリシャを支援する条件として、年金受給年齢の引き上げや支給額の削減など政府支出の削減や、増税などを提示。これらの緊縮策を拒否すれば、ギリシャはEU離脱に追い込まれると議論されてきた。
ギリシャで、公務員への手厚い保証や年金、失業者対策といった社会保障政策が国内財政を圧迫してきたことは事実だ。ところが、EUや国際通貨基金(IMF)などがギリシャに求めるような増税によってでは経済停滞が続き、雇用創出、税収増につながらないという問題もある。ギリシャ経済の未来には依然として見通しが立たない。
各国の経済主権なきEUの限界
一方で、EUのあり方そのものの見直しも喫緊の課題だ。大川隆法・幸福の科学総裁は、1994年の時点で、EUの前身である欧州共同体(EC)が発足すると「とんでもない混乱になる」と警告。「ドイツ以外の国は、ドイツから利益を取ることだけを考えています」と、経済に課題を持つ国が集まったところで全体の経済発展は見込めないと指摘していた(『理想国家日本の条件』)。
EUの最大の問題は、通貨をユーロに統一したことにより、各国が経済的な「主権」とも言える通貨発行権を手放してしまったことだ。ユーロの金利を定めるのは欧州中央銀行だけである。つまり、各国の中央銀行が金利を上げ下げして、通貨の供給量を調整する権限がない。
しかし、EU各国は経済発展の程度も大きく違う。ドイツのような先進国から、発展途上国と言っても良いギリシャのような国が同じ経済政策の下にあり、インフレ国もあればデフレ国もある。ここまでのばらつきがあるにも関わらず、国が同じ経済政策のもとにあるということ自体に無理がある。
そのような中、ドイツの銀行はギリシャなど周辺国に積極的に貸付をしてきた。ドイツの銀行にとっても、「新規顧客」の獲得を巡ってアメリカの金融機関と競争していたこともあり、利益があったと言える。つまり、ギリシャに莫大な資金を貸し付け、財政難を温存したのはドイツであるという構造になっている。
EUにおいて、弱小国が経済的主権を大国に委ねるという構図が続く限り、経済成長は到底望めず、ヨーロッパの没落は目に見えている。ギリシャに対する対応だけでなく、EU加盟国すべてが自立を取り戻すためにどうすればいいか、という議論に取りかかるべきだろう。(晴)
【関連書籍】
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