外交のエキスパートとして有名な米リスク・コンサルタント会社ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏が、同社のホームページ上で「金融の兵器化」(The Weaponization of Finance)について言及している。

銭形平次ではあるまいし、「金融が兵器になる」とはどういうことだろうか。

その象徴的な例は、ロシアに対する欧米の経済制裁だ。ロシアは、欧米の金融業界から切り離され、お金を借りたり、ドルを手に入れるのが難しくなった。その結果、ロシアは今まで貯めてきた準備金(国が持つ外資預金のようなもの)を使うことになり、2014年4月に4800億ドル以上あった準備金が、今は3800億ドルほどまで減少している。これまでの貯蓄を食いつぶすことになっているのだ。

アメリカは同盟国に対しても同じようなことができる。「ヨーロッパがロシアに経済制裁を行わなければ、ヨーロッパの企業がアメリカ市場で不利になるようにする」といった具合だ。アメリカの市場と、基軸通貨のドルから切り離されるということは、企業や国にとって死活問題だ。

ブレマー氏によると、世界から軍事的に引きつつあるアメリカが、軍事力の代わりに金融を外交上の「兵器」として使用する傾向が、今後加速するという。しかし、そこにはリスクも伴う。

ブレマー氏はまず、米企業が反撃の対象になる可能性について懸念する。サイバー攻撃や商談拒否、そして米企業を対象にした特別な規制などが考えられる。

さらに、アメリカに経済的圧力をかけられることを良しとしない国々が、ドル取引を止め、他の通貨で取引を行う可能性も存在するという。これは、ドルの基軸通貨としての立場を弱めることになる。

実際に、中国がドル以外の通貨で取引を行おうとしている背景には、「アメリカに干渉させない」という目的がある。中国主導のアジアインフラ投資銀行、BRICS銀行(新開発銀行)、「海のシルクロード」構想などは、アメリカの経済的影響力を弱め、自国のそれを強化する狙いがある。

覇権国家を目指している中国の脅威は、軍事侵攻や、シーレーンを押さえられることだけではない。もし中国がいまのアメリカのような基軸通貨国家となり、世界の金融システムが中国主導のものになったとしたら、日本をそのシステムから切り離すだけで干上がらせることができる。

このような事態を防ぐためにも、日本はもう一段の経済成長を遂げる必要がある。

それは、単にぜいたくをするためや、他国との貿易を増やすためだけではない。世界レベルで影響力を持ち、その経済システムの構築者・見張り役の一員となることで、覇権国が勝手に他国を圧迫するのを防ぐことができる。経済政策は安全保障の一部でもあるのだ。(中)

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