日本企業の「中国離れ」が止まらない。

中国商務省がこのほど発表した対中投資に関する統計によると、2014年の日本からの直接投資額は前年比38.8%減となり、2年連続の減少となった。下落率は、天安門事件の影響を強く受けた1989年の35%減を上回り、「過去最大級」という。17日付各紙が報じた。

日本企業の投資が減った原因は、人件費の高騰や円安など、経済構造の枠組みの変化によるものもある。しかし、習近平・国家主席主導の強硬な「反日」路線を背景にした中国の姿勢が、日本からの投資を遠ざけていることは否定できない。

ここで、直接投資とは、企業が海外で子会社や工場などを作るために使うお金のこと。その額が多いほど、投資された国の経済成長に貢献することになる。直接投資額は、企業が投資の方針を決定してから約半年~1年後に数字となって表れるため、今回の数値は主に2013年から14年にかけて対中投資の縮小を決めた日本企業が多いことを表している。

ではその間、判断の指標としてどのような事柄があったのか。

例えば、12年秋の日本政府による尖閣国有化後、中国各地に反日デモや日本製品の不買運動が広がり、数多くの日本企業が「焼き討ち」にあった。13年初頭からは、PM2.5による大気汚染が頻繁に報じられるようになり、日本企業に勤める社員の中に、中国への赴任を拒んだり、駐在しても早期帰国を望んだりする社員が増えた。

昨年は、商船三井の船が不当に「差し押さえ」を受けたほか、独占禁止法違反を理由に、日本やアメリカの自動車メーカーなどの外国企業に対して巨額の罰金を科す「外資たたき」が起きた。加えて、中国政府は恒常的に「従軍慰安婦」や「南京大虐殺」を持ち出し、自国民に対して反日感情を煽っている。

しかし、中国は人口が多く、国民の購買力も上がってきている。そのため、企業から見れば中国のマーケットとしての魅力は大きい。世界的に有名な投資家、ジム・ロジャーズ氏も「19世紀はイギリスの時代、20世紀はアメリカの時代、21世紀は中国の時代」(著書『A Bull in China』所収)と評しているほどだ。だが、上記のような「カントリーリスク」が解消されない状況では、社員の生活を守る経営者は、事業縮小や新規進出の見送りなどの合理的な判断をせざるを得ない。

習近平氏はたびたび「中国の夢」を語るが、われわれ日本人が同じように中国の市場に対して安易な「夢」を抱き続けるのは危険だ。それは日本だけではない。実際、世界各国からの対中投資を見てみると、米国は20.6%減、欧州連合(EU)は5.3%減と、先進国の間で大幅な減少が目立つ。外国企業も中国から確実に手を引き始めているのだ。

中国は本気で、尖閣や沖縄の侵略を企んでいる。また、経済活動にとって不可欠な「自由」を奪おうとする独裁国家でもある。日本との対立の度合いによっては今後、前科のある日本企業への焼き討ちや罰金刑の再発にとどまらず、彼らを丸ごと「人質に取られる」可能性まで考えておかなくてはならない。それゆえ、事業を行う上で大切になる「危機管理」という点で、経営者や投資家こそ国際政治に関心を持つべきだ。(翼)

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