核兵器をめぐる安全保障状況は、大国にとって避けては通れない課題だ。現在、核問題が先鋭化している地域は、イランを取り巻く中東と、中国を取り巻く東アジアである。

今回は中東地域の状況について、「イランの核問題が、中東の核開発競争を加速させている」というワシントン・インスティチュートというシンクタンクの報告書を見てみる。

報告書の結論は単純明快だ。「イランが核兵器を所持しようとしまいと、中東の核開発競争は止まらない」としている。

イスラム教シーア派のイランと、同スンニ派のペルシャ湾諸国は対立関係にあるが、いままではアメリカの抑止力が効いていたため、紛争や戦争に発展することはなかった。しかし、もしイランが核兵器開発を続けたらどうなるのだろう。

2009年4月、サウジアラビアのアブドラ王は、当時の米大使に、「もしイランが核兵器を所持したら、我々もそうする」と話している。

今、イランは原子力発電所の建設を進めているが、アメリカは、これが核兵器製造につながらないようにイランと交渉を進めている。もしアメリカとイランが交わす核条約が紙の上のものだけになり、「イランの核開発を止めることはない」とアラブ諸国が考えた場合、ペルシャ湾諸国も核兵器の保持に走るかもしれない。

報告書によれば、アラブ首長国連邦(UAE)は、中東でもっとも発達した原子力エネルギー政策を持っている。同国初の原子力発電所が二基、2017年と18年にそれぞれ完成する予定だ。UAEはアメリカと、ウランの凝縮は行わないとの条約に調印しているが、もしイランが核兵器を所持した場合、UAEはこの条約を破棄して、核兵器開発を始めると予想される。

また、サウジアラビアも石油依存を脱するために、今後20年で16基の原子力発電所を完成させる予定である。他のペルシャ湾諸国も、国内の原子力開発に取り組んでいる。民間のエネルギー供給にもなる上、もしイランが核兵器を作った場合、すぐにでも自国で核開発を開始できるからだ。

さらに、サウジアラビアなどは、中国から、核弾頭搭載可能な長距離ミサイルを購入しており、いざとなればパキスタンから核兵器を買うことも視野に入れているという。

オバマ政権は、イランとの交渉に慎重に臨む必要がある。拘束力のない口約束では、シーア派のアラブ諸国にその内実の無さをすぐ見破られることを理解しなければならない。しかし、シリアのアサド政権を放置することの波及効果を洞察しえなかったオバマ政権が、これを理解しているかは疑わしい。

次回は、日本を含めた東アジアの核兵器をめぐる状況を見てみたい。(中)

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