国連安全保障理事会の常任理事国とドイツの6カ国は24日、イランの核開発問題について、核兵器への転用が容易な濃縮度20%ウランの生産をイランが停止することを柱とした「第一段階」の措置で合意した。
イランは、20%ウランの生産停止のほか、すでに生産済みの在庫196kgについても濃度を低くして燃料化するなどの措置をとり6カ月以内にゼロにする。3.5%の低濃縮ウランの生産については現状規模で生産を続ける。また、核爆弾の原料となるプルトニウムの製造が可能なイラク西部アラクの重水炉の建設は中断する。その見返りとして、貴金属や自動車関連取引のイランに対する経済制裁が一部解除される。この制裁緩和の恩恵は総額70億ドルに上るとみられている。
アメリカのオバマ大統領は今回の合意について、「ここ10年近くで初めて、イランの核計画の進展を止めた。私が就任して以来、最も重要かつ具体的な進展だ」との声明を読み上げたほか、イランが核兵器を持つ道は断たれるとも指摘している。
しかし、この合意でイランの核兵器開発が止まるという見方には大いに疑問が残る。近年、アメリカは、「相手国に合意を破られ、問題が長期化する」というパターンをくり返している。
まず、イランと同様、核開発問題で6カ国協議が持たれてきた北朝鮮との関係がそうだ。北朝鮮の核開発問題を巡っては、同国に加えて日本、アメリカ、韓国、ロシア、中国の6カ国協議が開催され、2005年9月に核放棄を約束する共同声明を採択したが、その1年後の2006年10月に北朝鮮は1回目の核実験を強行した。さらに、2007年2月には「核施設の稼働停止」を含んだ文書に合意したものの、2009年5月に2度目の核実験を実施。今年1月には2005年の共同声明を一方的に破棄し、2月に3度目の核実験をしている。
シリアの化学兵器使用に関する措置も同じような道をたどろうとしている。アメリカとロシアは今年9月、シリアの化学兵器を2014年前半までにすべて廃棄させる枠組みで合意し、当面、アメリカは軍事介入しないことになったが、内戦中のシリア国内で化学兵器を安全に移動させ、管理、破壊することへの難しさが指摘されているほか、完全廃棄の履行を求める期間が、自国民の殺戮を続けるアサド政権の延命にもつながっている。
今回の合意の当事者であるイランも、2003年にウラン濃縮活動の停止に合意しながら反故にした経緯がある。
今後、イランの核兵器開発計画を断念させる6カ月後の最終合意に向けた協議が行われるが、イランのザリフ外相が「イランのウラン濃縮の権利が認められた」と述べたことに対し、協議を主導するアメリカのケリー国務長官は、「合意文書のどこにも『イランにウラン濃縮の権利がある』とは書いていない」と反論するなど、早くも交渉の難航が予想される事態となっている。
対話路線で一時的に緊張が緩和されたように見えても、それは時間稼ぎにしか過ぎない。北朝鮮やシリアの例に続き、今回もオバマ外交の危うさがにじみ出た合意となった。イランと北朝鮮との間では、核や弾道ミサイルの技術交流があることも指摘されており、日本にとっても対岸の火事ではない。(紘)
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