皮膚などの細胞から作ることができる万能細胞である、iPS細胞から作った網膜の細胞の、人間への世界初の移植手術を理化学研究所(理研)が12日に行い、無事に成功した。13日付各紙が報じた。

手術を受けたのは、加齢黄斑変性患者の70代の女性。加齢黄斑変性は、網膜の裏に血管が入り込み、視野の中央が歪んだり黒く欠けたりする病気だ。この患者には、病気の進行を止める薬を10回以上投与したが、効果がなかったという。

今回の手術では、iPS細胞から作った網膜の細胞をシート状に培養し、1.3mm×3mmの大きさに加工して、傷んだ組織や異常な血管などを取り除いた後に貼り付けた。手術の目的は、がん化することもあるiPS細胞の安全性の確認のため。確認には1年ほどかかり、4年間は経過を観察する。

移植用の細胞を作製した、理研の高橋政代プロジェクトリーダーは、眼科医としての診療の傍ら、ES細胞の研究を行っていたが、ES細胞は受精卵から作るという倫理的な問題があることから、眼に関する再生医療の研究は頓挫していた。iPS細胞にはそうした問題がない。高橋氏は、困難な事態にも、「患者さんに会っては治療法を作ると言ってきた。途中で辞めるわけには行かなかった」と語る(読売新聞)。

iPS細胞の作製方法が発表されてから8年での臨床研究は、異例の早さだ。日本は基礎研究で進んでいる分野でも、実用化に時間がかかりすぎて海外に追い抜かれるのが常だった。最先端の医療技術を成長戦略の一つとする日本政府の後押しも今回の手術実施の早さにつながった。

iPS細胞ですべての臓器を作って移植できれば、脳死臓器移植問題はなくなる。心停止から24時間で、魂は完全に肉体から切り離されるが、脳死の状態では、まだ本人の魂が肉体感覚を持った段階で臓器を取り出すことになり、死への穏やかな旅立ちを妨げてしまう。再生医療の研究は積極的に進めるべきだ。

今後は、パーキンソン病や脊髄損傷患者などに応用することが予定されている。臓器などへの応用は、目よりも必要な細胞の量が多く、形も複雑で難しくなる。

一方、今回の報道で一つ気になる点がある。各紙が「STAP問題を乗り越えて」「STAP問題『心乱された』」などと見出しを立てていることだ。記事内容は、この問題で理研やマスコミが騒然とする中で、高橋プロジェクトリーダーが研究を続けたという内容なのだが、まるで「STAP問題」はただの“やっかい者”のように書かれている。しかし、STAP現象の有無はこれから明らかになるものであり、「STAP問題」は、騒ぎを拡大させているメディアにも責任がある。

今回の成功は喜ばしいことだ。今後、STAP細胞の研究を含め、新しい技術の研究はますます必要になってくる。官民一体での再生医療の開発に、今後も注目したい。(居)

【関連記事】

2012年12月号記事 iPS細胞で脳死臓器移植を不要に 山中教授がノーベル賞を受賞 - Newsダイジェスト

http://the-liberty.com/article.php?item_id=5059

2014年8月28日付本欄 STAP現象の検証には小保方氏の参加が不可欠 理研が実験の中間報告

http://the-liberty.com/article.php?item_id=8354