経済産業省はこのほど、石油の共同備蓄を増量する検討を始める。
共同備蓄とは、国内の備蓄施設を産油国に貸し出すことで双方にメリットを生む仕組みだ。平時に産油国は共同備蓄の半分までを自由にアジア各国に輸出できるが、有事の際には日本に優先的に供給することになる。日本にとっては有事の際の優先供給というメリットがあり、産油国にとってはアジアに備蓄基地を持つことで商機を得ることができる。
日本の現在の石油備蓄量は、国と民間の合計で約8,500万キロリットル、162日分ある。このうち共同備蓄は2日分だけであり、提携国はサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の2国にとどまる。
この共同備蓄について、備蓄量は最大7日分までとし、提携国も増やす見込みだ。しかし7日分だけの優先供給では、日本にとって大きなメリットとは言えない。実はこれは、産油国に対する"アメ玉"である。
極めて資源の少ない日本は、エネルギーを輸入に頼らざるを得ない。そこで原油の安定供給を図るために、日本政府が油田開発に投資してリスクを負い、民間企業が操業を担うという政策を取っている。これが日本の自主開発油田と言われるものだ。その自主開発油田の25%が、2018年にUAEとの使用契約の期限を迎える。この契約を延長できるかどうかは、石油の安定調達に大きな影響を与える。そこで、共同備蓄を延長契約の交渉材料にしようというのだ。
このように、経済産業省はエネルギー安全保障のために尽力している。しかし、石油の備蓄だけでは、十分な対策とは言えない。
現在もイラクの内戦による原油高騰が懸念されている。また、日本に輸入される石油の90%が通過する南シナ海の大部分について、中国が一方的に領有権を宣言した。将来的に南シナ海が中国に支配されると、日本への石油の輸入経路が閉ざされる危険もある。このように、日本のエネルギー供給は常に脅威にさらされており、石油輸入先の政情安定や輸入経路の安全確保も、必須の課題だ。
輸入経路の共同防衛や機雷除去などを可能にするのが、今国会で話題になった集団的自衛権の行使容認だ。また、原油への依存度を減らすために、原発やメタンハイドレートといった多角化も進めるべきだ。資源の乏しい日本は、エネルギーに関する総合的な政策が必要なのである。
(HS政経塾 田部雄治)
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