アメリカは、火星への有人探査に真剣に挑戦している。2030年代の有人火星探査を目指す米航空宇宙局(NASA)は、火星に人を送るための新型有人宇宙船「オライオン」の開発を進めており、2021年には火星に無人探査機を送って火星に生命が存在した証拠を探し、土や石を持ち帰る予定だ。その補助的なミッションのひとつとして、火星で植物を育てることができるかどうかを調べるための、ナズナを育てる温室実験も提案されている。

宇宙船で長時間、快適に過ごすための工夫も進んできており、国際宇宙ステーション(ISS)の中でコーヒー豆からエスプレッソコーヒーを抽出するマシンも、最近、開発された。ISSの宇宙飛行士が一番恋しく思う日用品は、ささやかな一杯のエスプレッソだという。

こうした中で、米国の学術機関である全米研究評議会がこのほど、宇宙飛行に関する報告書を発表した。

同報告書によると、予算不足のため、このままでは2030年代の有人火星探査は不可能だという。そのため、宇宙開発において進展が目覚ましく、有人宇宙開発に熱心な中国と協力する必要があるかもしれない、という結論となっている。

中国は有人宇宙飛行をすでに達成しており、20年までに宇宙ステーションを作り、月面に人を送る予定だ。20年には全地球をカバーする独自のGPS衛星網「北斗」を完成させ、2040年代の有人火星探査を目指すなど、宇宙開発に非常に熱心な国だと言える。

単純に技術や資金の面で考えれば、中国と協力する案は魅力的に見えるだろう。しかし、南シナ海や東シナ海などで傍若無人に領有権を主張する中国は、アメリカにとって、信頼できる相手ではない。アメリカは13年に、スパイ防止の観点から、NASAへの中国国籍を持つ人の立ち入りを禁止しているが、同報告書は、これを外すべきだと主張する。

しかしアメリカは、宇宙技術はそのまま軍事に転用できるということを忘れてはならない。中国と宇宙開発で協力すれば、アメリカの軍事的優位性を自ら手放すことになりかねない。

一方、同報告書では、日本への言及は心もとないほど少なかった。有人宇宙開発に対しそれほど熱心ではないと受け止められているからだろう。日本は宇宙開発にもう一歩踏み込み、アメリカと有人宇宙開発でパートナーとなれる体制をとるべきだ。(居)

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