自民党の宇宙総合戦略小委員会が、政府の宇宙戦略に対する提言案を今月提出する方針だ。

今回の提言案の大きな柱として挙げられているのが、2017年度を目途とした「宇宙庁」の設置である。現行の宇宙開発戦略本部に代わって宇宙庁を設置することで、各省にまたがる宇宙予算を一元的に取り扱うことを目的としている。

実現すれば、行政と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の連携をスムーズにし、戦略性をもって予算を割り振ることができる。また、民間投資の呼び込みや、国際的競争力強化なども期待される。

以下のように、宇宙開発分野に投入されている予算と人員を比較すると、日本は主要国から大きく後れを取っていることがわかる。

【予算】(中国以外は2010年データ)

[アメリカ] 約3.5兆円

[欧州宇宙機関] 約0.5兆円(※)

[中国] 約0.2兆円(推定)

[日本] 約0.3 兆円

【人員】(中国以外は2010年データ)

[アメリカ] 約4.3万人

[欧州宇宙機関] 約1.0万人

[中国] 約3.6万人 (推定)

[日本] 約0.15万人

(各国政府、NASA、ESA、JAXA発表データより)

アメリカと比較すると、日本は予算が10分の1以下、人員においては約30分の1と桁違いだ。

宇宙開発の意義は大きく2つある。第一は「安全保障」、第二には「産業振興」だ。

今回の提言案は、安全保障の側面に重きが置かれ、「国家安全保障宇宙戦略」の策定や、JAXAと防衛省などの連携についても言及されている。また、日米防衛協力ガイドライン見直しの際の宇宙政策明確化も盛り込まれる見通しだ。

近年、宇宙利用をめぐる安全保障への関心が世界的に高まっている。特に中国が有人宇宙飛行や無人探査機の月面着陸を成功させ、衛星の配備も進めるなど、米露を猛追しているという事実は脅威となっている。

安倍晋三首相も宇宙政策における「安全保障」の重要性を明言しているが、ここで重要となるのがアメリカとの協力体制だ。4月下旬のオバマ米大統領と安倍首相の首脳会談において、宇宙関連の防衛協力を推進することで一致した。日米はより強固な連携によって中国に対抗していかなければならない。

「産業振興」にも大きな意義がある。宇宙技術からのスピンオフ商品は多数あり、寝具などに使われている「低反発素材」や「浄水器」、テレビリモコンなどの「コードレス製品」は宇宙技術から転用されたものだ。また、人気の缶チューハイ「氷結」に使われている「ダイヤカット缶」や「新幹線の先頭車両設計」にも宇宙技術が応用されている。このように宇宙技術の推進は人々の生活を豊かにし、経済活動にも大きく貢献する可能性がある。

日本の安全保障と経済発展のため、政府は宇宙開発に真剣に取り組まなければならない。

(HS政経塾 数森圭吾)

(※)ヨーロッパ各国が共同で設立した、宇宙開発・研究機関。欧州連合(EU)との協力関係を有しているが、欧州連合の専門機関ではない。

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