アメリカ政府はこのほど、キューバのグアンタナモ米軍基地に収監していたタリバンの幹部5人を解放した。これは、タリバンに5年間拘束されていた米陸軍軍曹との「捕虜交換」に応じるためだ。

解放された5人のなかには、国際テロ組織のアルカイダと関係のある人物も含まれており、今回の対応にアメリカ国内では批判が高まっている。

原因の一つは、この軍曹に「脱走兵」の疑いがあるからだ。ニューヨーク・タイムズ紙は、軍曹が2009年に「陸軍には幻滅させられた。私はアフガンでの米国の任務を支持しない。新しい人生を始めるために出ていく」という書置きをして脱走し、その後タリバンに拘束されたと報じている。このため、「脱走兵のためにテロリストを解放するのはおかしい」という批判が起こっているのだ。

そもそも、2001年のアメリカ同時多発テロ以降、アメリカは「テロに屈せず」「テロリストとは一切交渉しない」という姿勢を貫いてきた。オバマ米大統領も演説のなかで「アルカイダ関連組織の撲滅」を主張していたが、捕虜交換に応じたとなれば、「アメリカはテロに屈した」という批判が出るのも仕方ないだろう。

今回の捕虜交換に対し、オバマ大統領は記者会見で、「私たちは米兵を置き去りにはしない。軍曹は戦争捕虜であり、健康の悪化が強く懸念されていた」「弁解することはない」と述べている。

捕虜交換と言うと、日本では「日本赤軍事件」を思い起こさせる。この事件では日本赤軍が人質をとり、獄中のメンバーの釈放を要求。1975年の事件では5人、77年の事件では福田赳夫首相が「人命は地球より重い」として、さらに6人を釈放したのだ。この措置に対し、日本は諸外国から「日本はテロまで輸出するのか」と非難を受けたが、今回アメリカは同様の対応を行ったと言える。

最近のオバマ氏は「世界の警察官ではない」という発言を、より具体化しているように見える。先日のウエストポイントの陸軍士官学校での演説では、「軍事行動よりも外交を優先させる」「軍事行動が必要な際は多国間で対応」という趣旨の外交政策を述べた。今回の捕虜交換は、この「弱腰演説」の直後であるだけに、そのインパクトも大きい。

「テロリストとは一切交渉しない」というアメリカの毅然とした態度は、一定のテロ抑止力になってきた。しかし今回の捕虜交換によって、国際社会が「要求を通すための手段としてテロは有効」というイメージが広がる可能性は高い。このままでは、テロリストに米国人を「人質」として捕える動機を与え、過激な行動を助長することになりかねない。

自由と民主主義を尊ぶアメリカの「正義」はどこにいってしまったのだろうか。テロ組織や横暴な国家への毅然とした対応こそが、「自由と正義の国」アメリカに必要であると強く感じる。

(HS政経塾 数森圭吾)

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