読売新聞は23日朝刊で、来日直前のオバマ米大統領への単独書面インタビューの内容を掲載している。同紙は朝刊1面に、「米大統領『尖閣に安保適用』」と掲げ、オバマ大統領から、「中国が尖閣諸島へ軍事行動に出た場合、米軍を出動させる義務がある」との趣旨の回答を得たことを伝えている。

現在の日米安全保障条約の5条では、「日本国の施政権下における領域」への攻撃に対しては、米軍もその「危険に対処するように行動する」とされている。中国や北朝鮮が日本の領土を攻撃した場合に、米軍は、日本の安全のために戦う義務を負うことになる。

2010年以来、オバマ政権の閣僚は一貫して「尖閣は安保条約5条の適用内」と述べてきた。そして今回、大統領当人からも追認が与えられることとなった。しかし、今回の首脳会談で、「尖閣防衛にアメリカがどれだけ関与するか」に焦点を当てるだけでは、不十分だ。

日米安保の最大の「盲点」は、「日本側が自衛隊を出動させなければ、米軍も参戦しない可能性が高い」というところだ。当条約に言う「施政権」とは、「立法や行政など運営・統治を行う権利」のこと。国土が蹂躙されているのに、日本自身が自衛権や警察権を用いることができなければ、「施政権がない」と指摘されかねない。

中国・人民解放軍が、強引な尖閣上陸や本土爆撃のように、明確な武力攻撃をするとは限らない。日本の世論の盛り上がりを避けるために、例えば、「漂流した漁民」を装った解放軍の部隊を魚釣島に上陸させ、じわじわと占有を拡大した場合、日本は対処できるのか。

自衛隊法上、自衛隊をして自衛権を行使させる(防衛出動)には、「内閣総理大臣の命令」と「国会の承認」が必要だ。集団的自衛権の解釈変更で与党内をまとめられず、憲法9条改正については議論すらもできない状態では、「自衛隊を出動させる」と勇断する可能性は極めて低い。

本欄・本誌で繰り返し訴えてきた通り、「尖閣は日米安保条約5条の適用内」という言葉を引き出すだけで、日本の安全を守れると安心してはならない。

現在のアメリカは、「10年間で100兆円」という規模の国防費削減と、9・11以降の国内世論の内向き化に直面している。たとえ「尖閣は日米安保の適用内」と言われても、オバマ政権の言葉には、以前の「強いアメリカ」ほどの重みがないことも事実だ。

日本としては、「拡大する中国」「撤退するアメリカ」という流れの中で、アメリカと協力を深めつつも、日本独自の防衛戦略を描いていきたい。そのために、今回のオバマ大統領の訪日・アジア歴訪を大きな布石にするべきだ。

(HS政経塾 森國英和)

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