J.フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店は、2013年度中に従業員約1000人を削減する。理由は、「来年春の消費税引き上げによる減収への備え」だという。

1000人は同社全社員の約1割だ。うち700人あまりは、グループ内他社に移籍する。ただし、給与などの待遇は下がるため、その分が前倒しで支給される。残り200人以上は、退職金を積み増す「選択定年制度」により削減される。結果として、38億円の人件費圧縮が見込まれるという。

同グループは2014年2月期の連結経常利益見通しが過去最高だと発表したばかり。それだけに、消費増税のダメージ予想の大きさがうかがわれる。

大丸松坂のような「小売業」は、消費者に最も近く、消費税の影響を受けやすい。帝国データバンクが9月12日に発表した「消費税率引き上げに対する企業の意識調査」によると、「増税が企業の業績に悪影響を与える」と答えた企業は全体では55.3%だったが、その中でも「小売」は80%と最高だった。

今回、大丸松坂屋が人員削減を行ったが、同じように売り上げ減少を見込んでいる企業は多いだろう。今後、こうした形で合理化を行う企業は増えてくる。政府や経団連が「賃上げ」を推奨しているが、企業は賃上げどころではないことは明らかだ。賃下げか、リストラか、あるいは廃業を検討することになる可能性が高い。

こうした企業が増えれば、悪循環が続く。今回のような転籍や移籍の憂き目に合った人たちは、将来への不安から、消費を減らすだろう。景気悪化を見越したコストカットが、さらなる景気悪化を招く。

一方、景気の先行きを表す「機械受注率」が、リーマンショック後最高の水準に達するなど、景気の上向きが報じられている。増税前の駆け込み需要による「最後のチャンス」を逃すまいと、企業は年末商戦などの準備をしているようだ。しかし、駆け込み需要が大きければ大きいほど、反動も大きい。影でその備えが着々と進んでいることを、今回の人員削減は表している。 政府は、短期的な経済指標に左右されず、事の深刻さに気付くべきだ。消費増税の凍結はまだあり得るのではないか。(光)

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