• ドイツの1世帯あたりの純資産は20万ユーロ以下。
  • それに対してスペインは30万ユーロ、キプロスは67万ユーロ。

こうした統計を根拠に、「貧しいドイツ人がスペインやキプロスを救済する必要はないという」意見がドイツ国内で増えてきている。ドイツの1世帯あたり純資産がキプロスの3分の1以下という、衝撃的な数字の裏には、キプロス人は住宅を保有していることが多いのに対して、ドイツ人の50%は住宅を所有していないなどの理由がある。しかし、冷静な議論をせずに、ドイツではこうした主張が大きくとりあげられているようだ。

こうした流れのなかで、ユーロ圏からの離脱を目指す新党「ドイツのための選択肢」が2月に結成され、4月14日に初めての党大会が開かれた。代表となったハンブルク大学のベルント・ルッケ教授は「ユーロ導入は歴史的な誤りだ」と述べている。公約はユーロから離脱する条項をEU憲章に盛り込むことや、財政危機に陥ったユーロ加盟国への支援は税金で負担するのではなく、銀行や大口投資家の負担で行うことを掲げている。

米ワシントン・ポスト紙は、「ユーロに加盟してから収入が下がっているのに、税金は増えている。理解できない」という支持者の声を紹介している。党員はこの2カ月間で約7500人にまで増加した。

支持者が増える背景にあるのが、ドイツばかり割に合わない負担をさせられているという不公平感だ。ドイツには財政赤字を拡大させない仕組みがあるが、支援を受けている国にはその仕組みがない。

また、ユーロ圏内で問題が起きるたびに、一番の負担をするのがドイツになっている。2009年のギリシャ危機の際には、EUが負担した支援額800億ユーロのうち、ドイツの負担は約220億ユーロにのぼった。2010年に設立された財政支援のための基金である「欧州安定化基金(EFSF)」の拠出額でも最高額の1193億ユーロ。さらに、その基金を引き継いだ「欧州財政安定メカニズム(ESM)」に1900億ユーロを上限に拠出。

ユーロで一番の経済規模を持っているドイツがいなければ、ユーロ圏の安定を維持することはできないのだ。

ユーロからの離脱は、ドイツにとっても茨の道になる可能性は高い。「ドイツのための選択肢」が言うように、ドイツがユーロから離脱すれば、ユーロの価値は暴落するだろう。当然、ドイツ通貨の価値はユーロに対して高くなり、輸出には不利に働く。

ユーロ加盟国への支援に対するドイツの不満は大きいが、それでも単一通貨ユーロを支持するドイツの有権者は全体の3分の2に上る。ドイツにとっても、他の加盟国にとっても幸福な解決策は、これ以上支援を必要とする国を出さないことだ。それには、各国がドイツから自立できるだけの経済力をつけるしかない。

多くのドイツ国内メディアは、9月の総選挙で「ドイツのための選択肢」が議席を獲得するのは難しいのではないかと報じている。しかし、ドイツにユーロ離脱を訴える政党ができたことは、ユーロ圏各国に対する「ドイツから自立せよ」というシグナルである。ユーロ加盟国には、このシグナルを真剣に受け止めて自立の道を歩んでもらいたい。

(伊藤希望)

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2013年5月号記事 ユーロ危機はどうなったの? - そもそモグラのそもそも解説

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2012年9月号記事 EU金融危機の根本原因

http://www.the-liberty.com/article.php?item_id=4627

2011年12月号記事 ギリシャ危機は収束するかこれは「EU終わりの始まり」だ "Newsダイジェスト"

http://www.the-liberty.com/article.php?item_id=3142

2010年8月号記事 理性主義の限界 EU崩壊が始まった?

http://www.the-liberty.com/article.php?item_id=828