反政府デモに対する暴力の停止をシリア政府に求める決議案が4日、国連安全保障理事会で採決されたが、中国とロシアの拒否権行使によって否決された。昨年3月に反政府派がデモを開始して以来、政府弾圧による死者は5400人以上にのぼっており、最近でも中部のホムスで政府軍による無差別攻撃により少なくとも200人以上の死者が出ている。

決議案は昨年10月にも安保理に提出されたが、このときも中ロが拒否権を用いた。シリアに軍港を持つなど結びつきの強いロシアは、シリアに対して戦闘機の輸出など武器供給を続けており、自国の勢力圏を守ろうとしている。アメリカやアラブ連盟が大統領退陣を勧告するなど、シリア包囲網が狭まっているのは事実だが、今回の決議案否決を受けて、シリア軍は今後も弾圧を継続するとみられる。

シリアに対する安保理決議案の相次ぐ否決は、国際政治が大国のパワーゲームである現実を浮き彫りにした点で、日本にも教訓を突きつける。シリアの反政府派はデモ開始直後から米欧の介入を求めてきたが、たとえ人権保護という大義があったとしても、介入するかしないかを決めるのは、結局のところ大国の国益次第ということである。

日本国憲法にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」する姿勢は、他国からの侵略があっても国際社会に解決を委ねるということである。人権保護と侵略ではケースが異なるとはいえ、もしもの時は国際社会が善意で守ってくれると信じているなら大間違いであるということを、日本はシリア問題から読み取らねばならない。

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