本誌7月号で、一定量の放射線は体に悪いどころか逆に健康にいいとされる「ホルミシス効果」を紹介した。反原発の報道姿勢が強い大手新聞A紙は6月第4週の週末版で、ラドン温泉について「健康への効果はあるの?」という記事を載せ、ホルミシス「仮説」に言及している。そこに、実にアンフェアな書き方が含まれているとの情報を本誌は入手した。

同記事は、ホルミシス効果に詳しい研究者の、この効果に関するコメントを、カギカッコに入れてこう書いている。「少量なら薬になる化学物質が、多量だと毒になるのと一緒」。ところがこの研究者は、こんなことを言った覚えはないという。実際のコメントは「多量だと毒になる物質でも、少量なら薬になるのと一緒」という主旨だった。

会話や文章では誰でも、最後に言われたことが結論だと受け取る。研究者は「放射線は量によっては薬になる」ことを言いたかったのに、記事では「放射線は毒になる」という結論に変わっている。要するにこの記事を書いたA紙の記者は、研究者の発言内容の順番を意図的に変え、コメントの主旨を180度ひっくり返したのだ。

同様に、こんな文章もある。「原子力機構も『少ない放射線によるいい効果はあると思うが、悪い効果と比べてどちらが大きいか、そこはよくわからない』と言います」。だが、そのような主旨のこと(いい効果と悪い効果のどちらが大きいか、よくわからない)は言っていないと、原子力機構の担当者も呆れているとのことである。

しかも、研究者も原子力機構の担当者も、自分のコメントがいつ、どういう形で掲載されるか記者から一切知らされなかった。偶然A紙を購読していたので、紙面で初めて自分たちのコメントがねじ曲げられているのを知ったという。そのときの二人の驚きと怒りは想像に難くない。

その他の文章表現にも、作為的な操作がいくつも見える。たとえば「『体にいい』という“ふれこみの”ラドン温泉」「ラドン温泉を宣伝する人が“信じる”ホルミシス仮説」(“”はいずれも本誌編集部)などは、さも本当のことではないという印象を刷り込む表現だ。これに対し「記者のひとこと」欄では「健康効果は、学者の誰もが納得できるものではない。それが結論のようです」と、それが多数意見のような印象を与えている。

また、図「放射線による人体への影響」の中の「しきい値」を従来の科学的見解より低い「おおよそ50ミリシーベルト」に、「ホルミシス仮説の線量域」も同様に低く表現しているのも不可解だ。

さらに訴訟問題にも発展しかねないのが、ラドン温泉に「たとえ健康効果がなくても」という表現。これを書いた記者は鳥取県の三朝温泉地区の人たちに詫びるべきではないか。地元の人たちにとっては死活問題である。健康効果があるからこそラドン温泉は時代を超えて親しまれてきたのであり、これを利用した病院や研究施設もあるのだ。

A新聞がこれまでも、自社の主張に沿って事実をしばしばねじ曲げてきたことは周知の事実である。取材対象に対してあまりに無礼かつ傲慢、読者に対してあまりに不誠実なこの新聞が信じているという「言葉のチカラ」とは、自分たちが世論を誘導するチカラのことらしい。(司)