クルツ氏(右)の今後に注目したい(写真は2017年7月、外相時のもの)。

《本記事のポイント》

  • オーストリアのクルツ首相は、EUによる無計画な難民の受け入れに反対
  • 減税や不必要な補助金のカットなど、勤勉な人が報われる政府を目指す
  • クルツ氏の政策でオーストリアがどのように変化するか、注目が集まる

アメリカに続き、ヨーロッパ諸国の保守化が注目を集めている。

オーストリアではこのほど、セバスティアン・クルツ首相率いる中道右派の国民党と、極右と言われる自由党が連立政権を発足させ、各メディアで大きく報じられた。クルツ氏は2017年12月、31歳という若さで正式に首相に就任し、その保守的な政策から「ヨーロッパのトランプ」とも呼ばれている。

日本のメディアの多くが、クルツ氏の当選について、「オーストリアの右傾化」と報じたが、本欄では、クルツ氏がどのような政策を掲げているのか、またどのような人物なのかを見ていきたい。

難民の根本的解決は、難民を減らすこと

クルツ氏が第一に掲げるのは、無計画な難民受け入れの停止だ。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相が進めたEUの難民割り当て制度により、オーストリアには2015年から17年までに15万人以上の難民の受け入れが割り当てられた。その結果、オーストリアの治安は悪化し、財政は圧迫された。

クルツ氏は、この割り当て制度は各国に混乱をもたらし、EUを決裂させ、さらに難民問題の根本的な解決にすら結びつかないと考えている。

ヨーロッパに来る難民の多くが、シリアやアフガニスタン、イラクなどの政治的混乱や紛争などによって市民が安心して暮らせない地域から来ている。クルツ氏は、無計画に難民を受け入れるのではなく、難民が自国や隣国で暮らせるように軍事的な支援を行うべきだと主張している。

難民を出す国を1つでも減らすためにこそ、EUは力を尽くすべきだということだ。

また、オーストリア国内では、悪化した自国の財政や治安を回復するため、難民への補助金を大幅にカットし、携帯電話を検査して身元確認をするなど難民対策を進める見通しだ。

勤勉な人が報われる社会を

難民対策の他に、クルツ氏は減税にも取り組む。

新しく税を増やさないことを国民に約束し、給料から取られる税の比率を43%から40%に減税する見通し。公務員や政治家の給料の見直し、不必要な補助金カットにも言及している。「小さな政府」を目指し、勤勉に働いている人が報われる社会を構築したい考えだ。

この他、学校教育の指導内容の充実なども掲げている。

政策を支えるバックグラウンド

こうした政策のバックグラウンドには、クルツ氏の「信仰」があるのかもしれない。

クルツ氏は昨年2月、地元の教会新聞である「Wiener Kirchenzeitung(ウィーナー・キルヒェツァイトゥング)」で、自身の信仰観についてこのように語っている。

「私にとって信仰は重要な役割を果たしています。職務の関係で時間をとれず、残念ながらあまりミサには行けていませんが、休日に家族とミサに参加することは、私にとってとても大切なことです。信仰とキリスト教の価値観は、私の実家では大変重要です」

同紙でクルツ氏は、司祭に教えられた「人間として、決して隣人への思いやりを忘れてはならない」という助言に基づいて日々を送っていると話している。その一方で、「しかしながら、政治家として、決して現実的な視点を失ってはなりません。政治家が常に順守しなければならないのは、たとえ難しくとも、必要な決定を下す強い決断力です」とも述べる。

難民問題の解決に向けた軍事的な支援を行うと同時に、国益を守るための難民対策を進める姿は、信仰者としての「思いやり」と、政治家としての「現実的な視点」の両立と言えるかもしれない。減税や不必要な補助金のカット、官僚主義の撤廃など、小さな政府を目指しているのも、人間の可能性を信じているからだろう。

日本では、否定的な文脈で難民対策が報じられることの多いクルツ氏だが、政策やその背景にある思想を見ることも大事だ。"ヨーロッパのトランプ"の今後に注目したい。

(片岡眞有子)

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