《本記事のポイント》

  • 安倍外交には「法則」がある。それは「国際社会の連携」を多用すること。
  • 日本が北朝鮮に強い態度で対峙できるのは、アメリカの"おかげ"。
  • 安倍自民党の国防政策はほとんど変化がなく、国際社会の多用も「逃げ言葉」。

安倍晋三首相が北朝鮮を非難する際には、「一つの法則」がある。その法則が日本には通用しても、世界には通用しないだろう――。

安倍首相が胸を張る成果は、外交だ。歴代首相よりも精力的に外遊している。ネット上では、主に自民党支持者と見られるユーザーから「国土を護るためには、安倍外交の継続が絶対必要」「安倍外交に失敗などない」などとツイートされている。

しかし、外交成果は冷静に検証される必要がある。特に喫緊の課題と言えば、北朝鮮への対応だ。

「国際社会の連携」を連呼

例えば、北朝鮮がミサイルを発射すれば、まずは、安倍首相が「このような暴挙を行ったことは断じて容認できない」と批判姿勢を明らかにしている。そして、その文脈の前後には、必ずと言っていいほど「国際社会」という表現を使う。最近だけで、次のものがある(下表)。

国際社会 は今こそしっかりと連携していかなければならない」(10月2日、東京都北区の街頭演説)
「先の国連総会の一般討論演説で、拉致問題は、いかに日本の主権と人権を侵害しているかを訴え、 国際社会 の連携を求めた」(9月28日、拉致被害者との面会)
「北朝鮮による挑発を止めることができるかどうかは、 国際社会 の連帯にかかっている」(9月20日、国連演説)
「北朝鮮に対する 国際社会 の連携を、より強固なものにしていきたい」(9月18日、記者団に対して)
「(北朝鮮の)危険な挑発行為に、 国際社会 が団結して明確なメッセージを発しなければならない」(9月15日、記者団に対して)
「北朝鮮に対する格段に厳しい制裁決議が迅速に全会一致で採択されたことを高く評価します。 国際社会 が連携し連帯し、明確な意思を示すことができたと思います」(9月12日、記者団に対して)
国際社会 は一致して、最大限の圧力を加えなければならない」(9月7日、東方経済フォーラムの演説)
「北朝鮮の暴挙、世界の平和を脅かす行為を止めることができるかどうかは 国際社会 の連携と連帯にかかっている」(9月3日、記者団に対して)

いかに国際社会という表現を多用しているかが分かる。

しかし、現実に、国際社会を巻き込んで「北朝鮮包囲網」を築いているのは、アメリカのトランプ大統領だ。トランプ氏は、朝鮮半島周辺で軍事演習を行ったり、中国に根回しをして国連の制裁決議に同意させたりするなど、歴代大統領の中で、突出して北朝鮮有事に対処している。

もしこれが、安倍首相が北朝鮮対策に消極的だったトランプ氏を引き込み、包囲網を築かせるように導いたのなら高く評価できるが、実際のところを言えば、アメリカは、米本土に届こうとしているミサイルから国民を守るために動いている。

つまり、アメリカにとっては、日本の首相が誰であるかは関係ない。国益を守るために動いているのだ。

防衛政策は万全なのか?

「国難突破解散」と銘打つ安倍首相は、衆院解散を表明した記者会見でこう述べた。

「北朝鮮に全ての核、弾道ミサイル計画を完全な、検証可能な、かつ不可逆的な方法で放棄させなければならない。そのことを北朝鮮が受け入れない限り、今後ともあらゆる手段による圧力を最大限まで高めていく他に道はない。私はそう確信しています」

では、安倍自民党が掲げる防衛政策は、圧力を最大限に高めるものなのか。敵基地先制攻撃能力の保持や、核武装などを行うつもりであるのか。防衛政策の方向性はほとんど変わっておらず、防衛費も微増にとどまったが、これで難局を乗り切ることができるのか。

国際社会という表現は「逃げの言葉」

代わり映えしない安倍自民党の政策は、「自分の国は自分で守る」気がないと捉えられても仕方がない。その姿勢が、「国際社会」という逃げの表現を多用していることにも表れている。日本が何をするかを示さなければ、世界では通用しないのが、外交の鉄則でもある。

さらに、日本が何をするかという主語がなければ、当然、責任も発生しない。安倍外交は、責任の所在をあいまいにする「日本的な外交」、あるいは「官僚外交」に成り下がっているとも言える。

その点、「日本列島の4つの島を、核爆弾で海中に沈めるべきだ」と恫喝する北朝鮮の方が、よっぽど日本への圧力になっている。この表現なら、誰もが理解できる。だからこそ、マスコミ報道をはじめ、日本国内に動揺が走った。

北朝鮮有事への対応には、多くの時間が残されているわけではない。「アベノミクス道半ば」という言葉が飛び交っているが、「防衛政策も道半ば」であってはならない。もし有事の対処に間に合わなければ、何もしないのと同じくらい罪深い事態になるからだ。

(山本慧)

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