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編集長コラム 衆院選直前・特別版(2)
安倍晋三首相が衆院解散・総選挙を決断。当初は楽勝ムードだったが、小池新党「希望の党」の登場で、自民党は戦略の見直しを迫られている。
安倍首相は、消費税を10%に引き上げる際、その使途を見直し、教育無償化などに使えるようにする「全世代型」社会保障の実現を第一に訴える構えだった。しかし「希望の党」が消費税増税の凍結を打ち出したことで、「増税対凍結」の構図を避けるため、「使途変更」を声高に訴えることを控えている。
選挙に有利かどうかですべてが決まる自民党の体質をよく表しているが、この衆院選で自民党が勝利したら、「信任された」とばかりに「使途変更」を進めることだろう。
安倍・自民党が公約として掲げている北朝鮮への圧力強化継続、自衛隊を明記する憲法9条改正と合わせて、これらの「争点」の正当性を検討しておく必要があるだろう。
税率を上げたのに、消費税が減収となった意味
安倍首相は「全世代型」社会保障への転換を主張し始めているが、これは2019年10月からの消費税10%への増税を行うことが前提になっている。
ただ、2014年4月の消費税8%への増税が、何をもたらしたかについては、安倍首相は一切触れないようにしている。
日本のGDPの6割近くを占める消費が2014年から17年にかけて一世帯あたり年34万円も減少した。
それが政府の税収を直撃している。2016年度の税収は、法人税や所得税だけでなく、税率を上げた消費税そのものも減収となった。消費税はすでに、税率を上げたら税収が減るという悪循環に陥っている。
消費税の収入は、政府の借金返済と社会保障に使うことになっている。消費税率を上げても、社会保障の財源を確保できないということは、年金や医療などをひたすら充実させる今の「福祉国家」の路線が限界にきていることを示している。
日本が世界一の福祉大国?
あまり知られていないが、日本の社会保障は、実は世界一の福祉大国のスウェーデンと変わらないレベルにある。
政府の収入(税収や保険料、国債)のうち、どれくらいの割合を社会保障に使っているかを計算すると、日本は67%、スウェーデンは64%だという(2008年時点)。
また、本誌では何度も挙げている数字だが、日本の社会保障は、現役夫婦がリタイアした父母2人に対し、政府を通して年間約500万円の"仕送り"をしている計算になる(注1)。現役夫婦双方の父母が健在なら、約1千万円。ほとんどの家庭が本来なら破産する。
これは福祉に限らないが、政府の公的サービスの費用をそのまま国民に負担してもらう場合、世帯平均所得が約900万円ないと維持できない計算だという(注2)。2015年の世帯平均所得は545万円なので、政府のサービスを成り立たせるためには、350万円も収入を増やさないといけなくなる。
それほど大きな金額を政府・自民党が選挙のたびに大盤振る舞いし、いわば「合法的買収」を重ねてきた結果、1千兆円以上の政府の借金が積み上がった。
もはやこれは消費税の増税でまかなえるレベルではない。「福祉大国」日本は、もう清算するしかないところまで来ている。
(注1)原田泰・元早大経済学部教授の試算。
(注2)東京大学、慶応大学で設立された「政策シンクネット」で、高齢社会対策プロジェクト「首都圏2030」に参加する投資家・ブロガーの山本一郎氏の指摘。
社会保障だけでなく、教育も政府が丸抱え
安倍首相が言う「全世代型」社会保障は、大盤振る舞いを教育にまで広げるものだ。
例えば、「高等教育を含む教育の無償化」に意欲を示している。連携を強める「日本維新の会」の主張に配慮したものだが、もし実現すれば、大学教育などがすべて政府の丸抱えになる。
私立大学は実質的にすべて「国立大学」になり、文部科学省の許認可行政が際限なく大きくなる。
アメリカでは多くの州で、簡単な書類審査で私立大学を設立できる。その分、競争が激しく、閉鎖される大学も毎年数校は出てくる。
日本では、私立大学を新しく設立しようとしたら、既存の大学関係者でつくる文科省の審議会でそれを認めるかどうかを検討する仕組みだ。つまり、新しくラーメン店を出そうとしたら、周辺のラーメン店の店主たちが集まって、「出店を認めるかどうか」「新しいラーメン店のメニューや味をどうするか」を決めるのと同じと言える。
そのため、文科省とその傘下の審議会は新しい試みは基本的に認めず、各大学に同じような教育内容を押しつける傾向がある。文科省と既存の各大学は「大学関係者のムラ」として一体であるため、大学開設時には文科省OBの天下りが漏れなく付いてくる。
その代わりに大学には補助金が毎年振り込まれ、資金面でも私立ではなく、「官営」の学校になり、経営責任を負わなくて済むようになる。
これでは、学校経営を志す人たちが企業家精神を発揮して、新しい教育を試みようとしても、その芽が摘み取られてしまう。
国民は「財産権」を奪われている?
政府・自民党は戦後、国民の老後の面倒をしっかり見ようという福祉国家をつくり上げてきた。それは、国民全員が公務員のような立場になって、厚生労働省の年金局長から「老後はこれだけの年金を払います」という"命令"を受ける社会だ。そんな官僚の"管理"が教育分野の隅々にも広がろうとしている。
所得税(地方税含む)、相続税の最高税率は55%。法人税も、消費税も世界で最も高い水準にある(日本の消費税は税率が8%で他国に比べて低いが、軽減税率の品目が少ないため、収入額が大きい)。
幼児教育と、大学などの高等教育の授業料を無料にすると、約5兆円かかる。
教育無償化を憲法改正案に盛り込むことを目指している日本維新の会の橋下徹氏は、無償化の財源を相続税の増税でまかなう案を提唱している。相続税の最高税率を60%、70%と上げていくならば、死亡時の「財産没収」とほとんど変わらなくなる。
カール・マルクスは『共産党宣言』で、共産主義国家で実行される10の政策を挙げており、「すべての児童に対する公共無料教育」と「相続権の廃止」がセットになっている。日本維新の会の"思想"は共産主義に限りなく近く、それを取り入れようとしている安倍首相もそうなのだろう。
現在の社会保障に対する国民の負担だけをとっても、日本国民は「財産権」、つまり「自分で稼いだお金を自分で使う権利」を奪われ、政府に使い道を決められている状態にある。
政府に社会保障などで面倒を見てもらってありがたい反面、「リスクを取って、チャレンジした結果、大失敗し、野垂れ死ぬ権利」も奪われてしまっている。
今の日本は、資本主義の精神を発揮しにくい環境になっている。
GDPが横ばいの北朝鮮並みの「マイナス行政」
その結果、この25年間、日本の国内総生産(GDP)は500兆円からほとんど増えていない。アメリカの3倍増、中国の40倍増と比べ、日本の異常性は際立っている。
似たような国を探せば、北朝鮮ぐらいしかない。1990年頃から150億ドル(約1兆7千億円)前後で横ばいを続けているとされる。国連が推計している数字では一応、3%程度の経済成長をしていることになっており、1996年の100億ドルから2014年の170億ドルに増えてはいるので、日本は北朝鮮以下ということにもなる。
国の規模はまったく違うとはいえ、核・ミサイル開発に国家予算を集中的に注ぎ込み、国民は飢えさせている北朝鮮と同レベルか、それ以下の仕事しかできていないとは、恐ろしい話だ。
大川隆法・幸福の科学総裁は9月の法話「自分を人財に育てるには」で、こう指摘した。
「 民間の活力が抑えられ、銀行からお金を借りて事業がやれない理由は、いろんなことがなかなかできないからです。自由にやらせてくれない。だから、マイナスなのです。 (日銀の) 『マイナス金利』に『マイナス行政』。これがあって日本の活力は失われ続けているのです。はっきり言えば、自民党や民進党の勢力が、申し訳ないが、台風が通り過ぎた後のようになっていただければ、日本は発展するのではないかと、やはり、思わざるを得ないのです 」
安倍首相の提唱する「全世代型」の社会保障は、国民の生活や仕事に官僚が"命令"したり、財産権を奪ったりする「マイナス行政」をさらに強化する。
「自由は創造主からもたらされる」
アメリカのトランプ政権の良いところは、日米のマスコミではほとんど報道されないが、政権発足後、雇用が予想を上回って増えており、失業率は過去16年間で最低を記録。それに呼応して株価も上がり続けている。
トランプ大統領が進めているのは、法人税を35%から15%に下げるなどの大減税と、環境や労働、金融分野などでの大胆な規制緩和だ。
「241年前の独立宣言以降、アメリカは『自由は創造主からもたらされる』と確信してきました。私たちの自由という権利は、神から与えられているので、どんなこの世の権力も、奪うことはできません。
だから、私たちの政権は、その権利をワシントンから国民へ返そうとしているのです」
トランプ氏は7月の独立記念日を前にこう語った。
この言葉は、アメリカ独立戦争や独立宣言に影響を与えた17世紀イギリスの政治哲学者ジョン・ロックの、主権在民や財産権などの思想をよく表現している。
ロックの思想は、「神の創造物である人間が生命や自由、財産を守るために政府をつくるが、財産などを守れないなら抵抗権を行使して政府をつくり直せる」というもの。
この考え方は日本国憲法にも受け継がれている。北朝鮮以下の仕事しかできない日本こそ、政府のつくり直しが待ったなしだ。
大川総裁は『智慧の法』で、「大きな政府」の問題点についてこう指摘している。
「 国民の一人びとりが政府の大きな力に期待し、政府から与えられることに期待し、そして、この世の中のさまざまな制度や機構、仕組みをいじったならば、みなさまがたの未来が明るくなっていくと考えているとするならば、それはみなさまがた一人ひとりの魂の修行としては十分ではない 」
「 ここで甘えて、大きな政府にぶら下がるようになっていけば、この国は時代を下っていくことになります。かつて繁栄した国がそうなったように、下りに向かっていくことになるんです。今、心を入れ替え、立て直し、もう一度、力強い繁栄の息吹を、この地上に満ち満ちさせることが大事であります 」(次回へ続く)
(綾織次郎)
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