精神科医

千田 要一

プロフィール

(ちだ・よういち)1972年、岩手県出身。医学博士。精神科医、心療内科医。医療法人千手会・ハッピースマイルクリニック理事長。九州大学大学院修了後、ロンドン大学研究員を経て現職。欧米の研究機関と共同研究を進め、臨床現場で多くの治癒実績を挙げる。アメリカ心身医学会学術賞、日本心身医学会池見賞など学会受賞多数。国内外での学術論文と著書は100編を超える。著書に『幸福感の強い人、弱い人』(幸福の科学出版)、『ポジティブ三世療法』(パレード)など多数。

幸福感の強い人弱い人

幸福感の強い人弱い人

千田要一著

幸福の科学出版

仕事や人間関係に疲れた時、気分転換になるのが映画です。

その映画を選ぶ際に、動員数、人気ランキング、コメンテーターが評価する「芸術性」など、様々な基準があります。

アメリカでは、精神医学の立場から見て「沈んだ心を浮かせる薬」になる映画を選ぶカルチャーがあります。一方、いくら「名作だ」と評価されていても、精神医学的に「心を沈ませる毒」になる映画も存在します。

(参照)

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12795

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12810

本連載では、国内外で数多くの治療実績・研究実績を誇る精神科医・千田要一氏に、悩みに応じて、心を浮かせる力を持つ名作映画を処方していただきます。

世の中に、人の心を豊かにする映画が増えることを祈って、お贈りします。

◆                   ◆                   ◆

今回は、「なぜか自分のことを好きになれない」という人に、オススメの映画を処方いたします。

(1)ギルバート・グレイプ(★★★★☆)

まずご紹介するのが、1993年のアメリカで公開された「ギルバート・グレイプ」です。レオナルド・ディカプリオがアカデミー賞にノミネートされた、名作です。

青年のギルバート(ジョニー・デップ)は、生まれてから、アイオワ州の退屈で小さな町を出たことがありません。父親が自殺したショックで過食症となった母親、重い知的障害を持つ弟アニー(レオナルド・ディカプリオ)、二人の姉妹の面倒を見ながら、長男として生計を立てるために働かなければならないためです。

その日その日を精一杯に生きる中で、ギルバートの心には、すっかり穴が空いていました。自分の幸せについて考えられなくなる一方で、人妻と不倫をするなどして、その穴を埋めようとしていたのです。

そんなある時、トレーラーハウスの故障で、しばらく町に留まることとなった少女・ベッキーと出会います。天真爛漫なベッキーと接していく中で、「自分が幸福になりたい」という気持ちに蓋をしていた、ギルバートの心に変化が起き始めます。 しかし、家族への責任から、ベッキーの「一緒に旅に出よう」という誘いを断ってしまったギルバート。心に余裕がなくなった彼は、様々なトラブルを起こすアニーに対し、ある時、ついに手を上げてしまいます。

ぎくしゃくしていた家族との関係はどうなるのか。そして、ベッキーとの恋の行方は――。

自分の夢や恋愛を差し置いて、家族を支えるギルバートのように、傍から見て「もっと幸せになれよ」と言いたくなる人は時々います。「相手の反応で自分の幸不幸が決まる」「自分が不幸になっても、過剰に誰かを支えないといけない」という考えを持っているのです。

そうなる理由の多くは、心の中に、「根本的な安心感」や「愛されている実感」がないこと。これを心理学では、「安全基地」と呼んでいます。舟で言う、「錨」のようなもの。

この「安全基地」がない人は、他にも、自分に暴言を吐くようなパートナーを求めてしまったり、恋愛依存症になったり、物やギャンブルに依存したりすることがあります。

そこから抜け出すために、ギルバートの場合は、「いい彼女を見つけて自分を肯定できるようになる」といったことがポイントとなりました。

また、自分の中でいいところを見つける「ほめ日記」をつけたり、感謝の習慣をつけたりすることが大事です。宗教の信仰などを通して、「神仏に愛されている」実感を持つことなども、有効です。

(2)キッド(★★★☆☆)

次にご紹介する映画は、2000年にアメリカで公開されたディズニー映画「キッド」です。

仕事ひと筋に生きてきた中年男性が、子供時代のトラウマを癒し、忘れていた大切な夢を取り戻していくハートフル映画です。

ラス・デューリッツ(ブルース・ウィリス)は、リッチな独身生活者で、クライアントにイメージ・アップの指南をする優秀なイメージ・コンサルタントでした。一方で、心はすさみ、人に嫌われる言動を繰り返してしまいます。また、ストレスのためか、顔が時々けいれんする"チック症状"を患い、唯一の肉親である父親とは長年疎遠でした。

そんなラスでしたが、間もなく40歳を迎えるある夜、自宅で小さな男の子と出会います。彼はなんと、昔の自分=ラスティ(スペンサー・ブレスリン)だったのです。

ラスは、彼と話をするうちに、今の自分が子供の頃の夢をひとつも叶えていないことを知り、がく然とします。パイロットになる夢、大人になったら犬を飼う夢、幸福な家族を作る夢……。

さらに、子供時代のトラウマとなる出来事も、"目撃"します。

8歳の誕生日に、悪ガキの手から犬を助けようとして、逆に殴られたことをきっかけに、いじめられっ子になってしまったのです。またこの日、幼いラスは、母親がガンで助からない事実を知ってしまいます。その時の父親とのやり取りをきっかけに、ラスの心には"罪悪感"が残り、父親との関係も悪化していったことを思い出したのです。

ラスは、これらのトラウマをうまく整理し、思い出した夢を実現するために行動を開始するのでした。

心理学では、「子供時代に経験した気持ちが、潜在意識に根強く残り、現在の人生に大きく影響を与えている」と考えています。その子供時代の気持ちは、「インナーチャイルド」と呼ばれます。

「インナーチャイルド」は本作のように、「夢」という形で残っていることもあれば、「トラウマ」という形で現在の自分に悪影響を及ぼしていることもあります。

「インナーチャイルド」を探り、そこにあるトラウマを克服する手法として、「エンプティチェア(空の椅子)」というものがあります。

向かい側に空の椅子を置いて、そこに小さい頃の自分がいると仮定して、対話するのです。この映画の設定と、非常に似ています。

過去の自分は、「お父さん、お母さんから愛されなかった」と傷ついた気持ちを持っているかもしれません。しかし大人になった自分からは、「親も人生の苦難に耐えながら、不器用なりに自分を愛そうとしてくれた」ということが見えてきたりするのです。その立場から、小さな自分を説得し、なぐさめてあげるのです。

自己認識として、「子供の頃のマイナスのイメージ」で固まっていることが多いため、抑圧した感情を吐き出させた上で、整理するわけです。

こうして、子供の頃の「トラウマ」「罪悪感」「愛されなかった記憶」などを整理してあげることで、先ほどご紹介した、「安全基地」というものができてくることがあります。そうすることで、「夢」や「人間関係」の面で、明るい未来が開けてくるのです。

(3)「AMY エイミー」(★★★☆☆)

「トラウマの克服」について学ぶなら、1990年に公開されたオーストラリア映画「AMY エイミー」もオススメです。

少女エイミー(アラーナ・ディ・ローマ)は、4歳の頃、人気ロックスターの父親ウィル(ニック・バーカー)がステージ上で感電死するのを目撃したのが原因で、8歳になっても口が利けず、耳も聞こえない状態が続いていました。

しかし、売れないミュージシャンのロバート(ベン・メンデルソン)はある日、自分の歌声にエイミーが反応することに気づきます。何と彼女は、歌だけを通してコミュニケーションできることが判明したのです。

さらに、児童心理学の専門医アーカートとの交流を通して、エイミーは「かつて自分がステージでパパを殺したと思い込んでいた」自責感を克服し、口と耳が使えない"ヒステリー症状"が癒されていきます。

エイミーが回復していくその姿は感動的です。

心理学では、3~5歳までの幼少期の子供は、親の死や両親の離婚など直面した事件について、「原因は自分にある」と"自責的"に捉えてしまうことが分かっています。こうした、心の中に潜む子供時代の気持ち「インナーチャイルド」を成仏させることはメンタルヘルスに大きく関わってくるのです。

他には、以下のような映画がオススメです。

  • 「ダイアナ」(★★☆☆☆)・・・1997年に交通事故で36歳の若さで亡くなった元英国皇太子妃ダイアナの生前の心理的苦悩に迫る伝記的映画です。自分の外に「安全基地」を求めて、他人に依存していった姿が描かれています。

  • 「クリスマス・キャロル」(★★★☆☆)・・・イギリスの文豪チャールズ・ディケンズの小説をディズニー映画化。クリスマス・イブの夜、人に冷たく、お金にケチなスクルージじいさんのもとに3人の精霊が訪れます。精霊の中でも、「過去のクリスマスの精霊」に自分のインナーチャイルドを直面させられたスクルージは、素朴で、純粋な夢を持っていた子供時代を思い出し、今のエゴイスティックな生き方を反省することになります。。

【関連サイト】

ハッピースマイルクリニック公式サイト

http://hs-cl.com/

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【関連書籍】

幸福の科学出版 『幸福感の強い人弱い人 最新ポジティブ心理学の信念の科学』 千田要一著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=780

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2017年5月30日付本欄 「人前で話すのが苦手な人」へ――精神科医がおすすめする 心を浮かせる名作映画(4)

http://the-liberty.com/article.php?item_id=13076