古里(コリ)原発。

文在寅大統領の下、韓国では本格的に「脱原発」が進んでいる。

釜山郊外にある韓国初の原発である古里(コリ)原発の運転停止を祝した式典には、選挙中から「脱原発」を主張していた文氏が出席。演説の中で「新規の原発建設計画を全面的に白紙化し、寿命を超えた原子炉も運転しない」と発言し、今後も「脱原発」を推進していく姿勢を強調した。

文氏は「脱原発」に踏み切った理由の1つとして、2011年に起きた東京電力福島第1原発の事故にも言及。「福島第一原発事故の死者数は、2016年3月現在で1368人」とした。

しかし、この事故で、放射能被害で亡くなった人はいない。また、日本の一部メディアが今年3月、原発事故で避難した後に体調を崩して亡くなった「原発関連死」の人数を独自調査により1368人と報じた例があるが、政府は「地震や津波が原因なのか、原発事故が原因なのかを区別できない」などとして、正式な人数を算出してはいない。

「原発は危険」という印象を作り、世論を味方につけようという文氏の意図が透けて見える発言だ。

「脱原発」の反面教師であるはずの日本

韓国にとって、「脱原発」の判断は経済的な打撃に繋がりかねない。それは、日本や台湾の例が証明している。

東日本大震災以来、当時の民主党政権によって、全国の原発が停止するという事態となった。メデイアは盛んに「放射能被害の危険性」を報じ、「脱原発」の機運が高まっていった。

その一方、2011年の夏には「節電」が叫ばれ、企業が集中する都市部では、営業時間の短縮を余儀なくされた。また、原発の停止に伴い、火力発電が増加し、燃料費の増加で電気料金が値上がりした。経済に大きな打撃を与えた結果、2015年に鹿児島県の川内原発を皮切りに、各地で原発の再稼働が始まった。

文大統領は原発に代わるエネルギーとして、再生可能エネルギーや液化天然ガスによる発電の積極的な推進を掲げている。

しかし、韓国は現状では電力開発を火力と原子力に頼り切りだ。原発依存度は総発電量の中で28.4%を占め、世界第4位の数値である。文大統領が代替エネルギーとして提案している再生可能エネルギーも、今はまだ十分な電力を発電できる規模ではない。その中での大統領の「脱原発」判断が電力不足による産業への悪影響につながることは、日本の例からも明らかだろう。

半ば強引に「脱原発」を推し進める姿勢は危険である。

国家の安全に原発は「必要不可欠」

悪化する朝鮮半島情勢の観点からも「脱原発」には注意が必要だ。逼迫した朝鮮半島情勢において、「脱原発」の推進は命取りになるだろう。安定した電力を国内で賄える原子力発電は、安全保障上期待される役割も大きい。さらに中国の軍事的脅威が高まる中、南シナ海のシーレーンが封鎖されれば、さらなる国の危機となる。

エネルギー供給のあり方は国家レベルの様々な問題に直結している。韓国には自国がおかれている経済・安全保障両面の状況を客観的に捉え、最善の判断を下すことが望まれる。(詩)

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