《本記事のポイント》
- 安倍首相は憲法9条に「自衛隊の根拠」を明記するよう自民党内へ発信
- 自民党憲法改正草案は「国家防衛の責任者」が不在
- 日本を守るため、国防軍と戦力をもち、「国家防衛の責任者」を明記すべき
自民党は役員会で、2020年の「新憲法」施行の実現に向け、党内議論を加速させる方針を確認した。今後、憲法9条への自衛隊の根拠規定に関する追加案などが議論される見込みという。
2012年末に安倍内閣が発足して以降、保守層を中心に、憲法改正の期待の声が高まっている。当初、安倍晋三首相が目指した改憲とは「国家を守るための軍隊・戦力を持つ」という主権国家において当然の権利を取り戻すことだった。
しかし、今回、安倍首相が発信した方針にならえば、結局「自衛すらままならない自衛隊」の在り方を憲法に条文化することになる。これは従来、安倍首相が目指していた改憲と大きく異なるはずだ。
自民党改正草案には責任の所在が不明
また、2012年の自民党憲法改正草案がそのまま反映されるとなれば、万一の際の戦争責任の所在も曖昧なままになる。自民党憲法改正草案第9条には、「内閣総理大臣を最高指揮官とする」と明記されているのみだ。
有事になった場合、自衛隊の派遣などのあらゆる行動に責任の所在が問われるが、この条文では最終責任者が曖昧になる。
外国の例を見ても、国王もしくは大統領などの「国家元首」が戦争責任を負うことが普通だ。しかし、現行の日本国憲法には、「元首」が明記されていない。これは長らく議論されてきた問題だったが、いまだ改憲に至っていない。
2012年の自民党の憲法改正草案では、天皇を「元首」に定めると規定されている。しかし、実際に戦争に踏み切ることを決めるのは、内閣総理大臣ということになり、天皇ではない。つまり、自民党の草案通りに改正が進めば、内閣総理大臣は最高指揮官ではあるが、「元首」ではないので、戦争責任を負うかどうかは曖昧になる。
また天皇を「元首」として定めた場合、国家の責任は天皇にあることになる。もし戦争が起きた場合、第二次世界大戦敗戦後、昭和天皇が戦争責任を追及され、天皇制の危機に陥った時と同じことが繰り返される。
「元首」を明記しないことも、天皇を「元首」に定めることも、どちらも問題がある。
民主主義国家である日本は、国民の代表が政治を行う。国民は、自分たちの生命・安全・財産等を守ってくれる人を、投票で選ぶわけだから、選挙で選ばれた人が「元首」になるべきだろう。
正直に「自衛隊の存在」を肯定すべき
日本周辺の安全保障問題をみても、自衛隊の存在を肯定することは必要不可欠。しかし、今回の安倍首相の発言のように、ただ自衛隊の根拠を加えるだけでは不十分だ。
憲法の根本的な問題は、主権国家として必須の国防軍の存在を否定しているところだ。自衛権の行使とそれに匹敵する武装を可能にし、「非武装中立」という概念を打ち壊す「憲法9条改正」は成し遂げるべきである。
安倍首相は、現行憲法の9条を温存しようとしているが、それでは国家主権を失ったままだ。しかも、国家防衛の責任の所在はあいまいなままで、条文が煩雑になる。やはり、国家防衛の最高責任者が誰であるかを明記しつつ、国家と国民の安全を守るため、国防軍と戦力をもつ方向へと改憲すべきだ。
(HS政経塾 山本慈)
【関連書籍】
幸福の科学出版 『新・日本国憲法 試案』 大川隆法著
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