フランス大統領選は、7日に決選投票が行われ、EUとの関係強化を訴えていたエマニュエル・マクロン氏が、極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ル・ペン氏を破り、当選を決めた。

今回の大統領選は、当初より波乱づくめだった。フランスの二大政党である社会党と共和党の候補者が、ともに決選投票に進めなかったのは、現制度始まって以来のこと。

また、マクロン氏は地方選も含めて選挙経験がなく、39歳という戦後最も若いフランス大統領となる。政治家としての経験不足も不安視されていたが、有効投票数の65%以上を獲得し、ル・ペン氏に大差をつけて勝利した。

どんな経歴や考え方を持つ人物なのか。

右でも左でもない路線?

マクロン氏は、パリ政治学院、国立行政学院を卒業したエリートで、フランス財務省に勤務した後、ロスチャイルド銀行に転職。副社長格にまで昇進した。

銀行を辞めた後は、社会党のオランド大統領の下で側近をつとめ、2014年に経済相に就任する。在任中には、年間5回に制限されていた商業施設の日曜営業の拡大、長距離バス路線の自由化など、規制緩和を進める「マクロン法」と呼ばれる法律を可決させた。

その後、「右でも左でもない政治」を目指すとして、「前進!」と名づけた政治運動を設立し、昨年8月に経済相を辞任。大統領選挙への立候補を表明した。

元社会党員であり、積極的な移民・難民の受け入れや弱者保護といった左派的な傾向を持ちつつも、経済面においては、法人税の減税、国営企業の民営化など、自由主義的な政策を打ち出している。

こうした政策が、既成政党に対する不信もあいまって、右からも左からも支持を集めることになったのだろう。

国家を繁栄させる哲学を打ち出せるか

フランスの有権者は、フランス経済の低迷を打ち破ってくれることを若き大統領に期待しているだろう。だが、EUの枠組みを守り、単一通貨ユーロを維持し、さらにエネルギーやデジタル分野でも単一市場の創設を目指す点は、最近のフランスの路線と大きく変わらないようにも思える。また、ドイツのメルケル首相と同じく、緊縮財政の傾向も強い。

このようなマクロン氏の主張は、一部のグローバル企業にとってはありがたいかもしれないが、フランスの繁栄につながるかどうかは分からない。

アメリカのトランプ大統領は、アメリカ企業の国内回帰、雇用創出を促すための税制改革、大規模なインフラ投資など、アメリカ経済を復活させる手を着実に打っている。

トランプ氏には、「企業は雇用創出や納税を通じて、国家の繁栄に貢献すべきだ」「国民一人ひとりが働いて富を生み出し、アメリカを強くしよう」という明確な哲学がある。

もし、マクロン氏がEUの枠組みについていけば大丈夫だと思っているならば、フランスの繁栄や独自性は失われていくかもしれない。

「右でも左でもない」スタンスが、新たな繁栄の指針を打ち出すことにつながるのか、それとも国家を繁栄させる哲学が見えないだけなのか、次第に明らかになってくるだろう。

(小川佳世子)

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