《本記事のポイント》

  • 日本政府がASEANに4兆円の資金枠新設を発表
  • これまでも日本はアジアの経済危機を救ってきた
  • 中国の経済覇権を止めるためにも円の影響力強化は必要

日本政府は、東南アジア諸国連合(ASEAN)との財務省・中央銀行総裁会議を5日、横浜で開き、最大4兆円に及ぶ円の融通のための資金枠を新設することを発表した。

この資金枠は、金融危機で自国通貨の価値が暴落した国に、その国の通貨と、日本が持つ円やドルを交換するための仕組みで、その国の為替市場を安定させ、危機の拡大を防ぐ効果がある。

「東南アジアの国々に万一のことがあった場合には、それを助けるために日本は4兆円まで出す用意をします」と宣言したということだ。

これまでもアジア各国を助けてきた日本

実は、日本は世界最大の債権国であり、これまでも、アジアの国々を助けてきた実績がある。例えば、1997年のアジア通貨危機の際には、アジア開発銀行(ADB)を通じて、各国へのドルの手配を手伝い、ASEAN諸国と緊密な関係を築くのに貢献した。

今回は、ドルだけでなく円との交換も選べるようにした。東南アジアにおいて円をより定着させ、影響力を増すことを狙ったものであるという。

この背景には、今、中国が人民元の国際化を積極的に進めていることがある。例えば、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を創設したり、人民元が国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権の構成通貨に加わったりと、攻勢をかけている。こうした動きに対抗することも、今回の目的のようだ。

日本の経済規模を考えれば、アジアの経済圏を引っ張っていく責任を持つことは当然だ。その点、このようなリーダーシップを発揮していくことは評価できる。

一方、ADBは、現状、うまくいっているとは言い難い。その理由は、ADBによる投資の審査や条件が厳しすぎること。もう少し、大胆な投資や、一流の人材の派遣が必要だろう。

円の国際化を進めるメリット

円の国際化を進めることは、次の2点から、とても大切だ。

(1)円の価値が安定し、日本の影響力が高まる

世界中で円建ての取引が増えれば、世界各国が円を一定の割合で保有するようになる。世界中で円が必要とされるようになれば、円の価値は今より圧倒的に高くなる。

円の経済圏の拡大が続き、今のドルのように世界の基軸通貨の一つとなれば、「どれだけ円を刷っても価値が下がらない」時代がやって来る。こうなれば、今政府を悩ませている財政赤字の問題も、円紙幣を刷って借金返済に充てることさえ可能になるということだ。さらには、他国の経済変動、あるいは他国からの経済制裁による影響を抑えることができる。国の影響力が、格段に高まるということだ。

(2)中国の経済覇権を止める

中国が経済圏を拡大させているのも、人民元の基軸通貨化を達成し、国際的影響力を増すためだ。しかし、この動きは大きな悲劇をもたらしかねない。

中国は今、猛烈な勢いでアフリカなどの原油、鉱物、食糧などを買い占めている。さらに、海外における道路や鉄道などのインフラ投資には、中国人を雇い、中国資源を使うことが条件となっている。これでは、現地に雇用や産業は生まれず、中国人のための投資に過ぎない。横暴な自然破壊も問題になっている。一部では、新たな植民地化との声もある。

もし、このような暴挙を許しておけば、投資を受けた新興国は国の産業の中枢を中国に握られることになる。中国が経済面での脅しをかければ、言いなりになるしかない。中国が軍事的にアジア侵出を狙っていることもあり、その足掛かりにされてしまう可能性は高い。

アジアの平和を守るためにも、円の影響力を増し、中国の経済覇権を止めなければいけない。

日本発の新世界秩序を

アジアで、共存共栄を基本とした繁栄を実現できる国は、日本しかない。東南アジアの国々にとって、日本は、戦前は白人国家と堂々と渡り合い、戦後も荒廃から驚異的な経済成長を成し遂げた、まさに「あこがれの国」である。それを自覚し、日本発の世界秩序を実現すべき時期が来ているのではないだろうか。(和)

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