米ワシントンにある連邦準備理事会。

《本記事のポイント》

  • アメリカで2カ月連続の雇用20万人増加
  • イエレンFRB議長が利上げを急ごうとしている
  • 現時点での利上げはトランプの経済政策に水を差す可能性が高い

米労働省が10日、2月の雇用統計で、非農業部門の雇用者数が前月比で23.5万人増加したと発表した。トランプ氏の大統領就任後、2カ月続いての20万人増となった。

雇用統計は経済状況を見る上で、非常に重要な指標だ。特に1カ月でどの程度の就業者数が増えたかを示す「非農業就業者増加数」は、投資家らの判断を大きく左右する。

「非農業就業者数増加数」は平常時で10万人増、好況時では20万人増とされ、今回の23.5万人増という数字は、市場の予想を上回るペースで、アメリカ経済が上向いていることを示している。これは、トランプ大統領の打ち出した成長戦略や矢継ぎ早に行われた大統領令の発布などの、行動力、実行力の成果だと考えられる。

経済の好循環で雇用は増える

景気がよくなると企業の利益が増え、従業員の給料が増えたり、新たな従業員を雇ったりすることができる。給料を手にした従業員は、消費者として多くの買い物をすることで、モノやサービスに対する需要が高まる。そうして企業の利益はさらに増え、給料が上がって消費も増えると、物価も緩やかに上昇していく。

現在のアメリカでは、こうした循環による「良いインフレ」が起こりつつある。トランプ大統領が掲げる「過去最大の雇用創出」はこの流れを加速させるものだ。

トランプ氏の経済政策に水を差す利上げ

一方、物価の安定と雇用の最大化を担うFRB(米連邦準備制度理事会)議長のジャネット・イエレン氏は、利上げを急ごうとしている。

物価が上がりすぎないように金利を上げることはセオリーだが、経済が上向きかけた今のタイミングでの利上げは、企業が新しいチャレンジをするための資金調達を難しくし、景気回復に水を差してしまう可能性が高い。

ではなぜ、今、利上げをしようとするのだろうか。

イエレン議長は、リーマンショック以降、経済的損失を回復するため「高圧経済」政策を支持していると見られてきた。「高圧経済」政策とは、金融緩和、財政出動によって需要を喚起し、景気を刺激し続ける政策を指す。

だが、トランプ氏の大統領当選後に行われた昨年12月の記者会見では、「高圧経済に賛成だとは一度も言っていない」「過熱気味の経済運営を実験的に行うことを推奨しない」と発言している。利上げは、トランプ大統領の取ろうとしている経済政策への牽制にも見える。

イエレン議長は非農業就業者数の目安として「月7万5千人から12万5千人の就業増」を掲げており、トランプ大統領が掲げる「過去最大の雇用創出」という目標と比べると、考えが小さいのかもしれない。

イエレン議長は、物価の安定だけに着目するのではなく、トランプ氏が目指す「強いアメリカ経済の復活」に貢献するという大局観を見失ってはならない。(細)

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