安倍晋三首相が、旧日本軍による真珠湾攻撃の犠牲者を慰霊する目的で、26日夜、ハワイに向かう。
だが、この訪問があらぬ火種を生み出している。
いわゆる「南京大虐殺」から79年が経ったとして、12月13日に江蘇(こうそ)省南京市の「南京大虐殺記念館」で追悼式典が開催された。今回の式典は、2014年に主催が地元政府から国家へと格上げされてから3回目となる。
中国共産党の趙楽際(チョウ・ラクサイ)政治局委員長が参加し、「歴史を改ざんしようとするいかなるたくらみも中国人と世界の平和と正義を愛する人の非難と軽蔑を受けるだろう」と述べた。旧日本軍に殺害されたとする犠牲者の数についても「30万人」と強調し、「国際的にも法律的にも評価が定まっている」とした。
参加者の1人は「安倍首相にもここに来て、祈って欲しい」と話したという(13日付朝日新聞)。また、式典に先立って、中国民間対日賠償請求連合会の童増(トン・ズン)会長が、同会が在中国日本大使館を通じて、日本政府および安倍首相に対し、南京大虐殺に関する謝罪を求める書簡を送ったことを明らかにしている。
真珠湾訪問を機に盛り上がる中国のプロパガンダ
安倍首相が真珠湾への訪問を発表した後、中国外務省の陸慷(りく・こう)報道局長は、記者会見で、満州事変の発端となった柳条湖事件を記念した博物館や731部隊跡地を挙げ、「日本が深刻に反省し本当に謝罪したいなら、中国には多くの弔うべき場所がある」と述べた。
中国のインターネットでも、「なぜ(中国の)南京を訪れ、大虐殺の犠牲者を弔わないのか」などの書き込みが目立つ。
しかし、中国政府が主張する、南京大虐殺で30万人の犠牲が出たということはありえない。当時の南京の人口は、記録に残っているもので15~25万人であり、人口以上の虐殺は物理的に不可能であり、「虐殺された」はずの遺体の記録もない。そもそも原爆でも落とさない限り、短期間で10万人規模の虐殺を行うこと自体が難しい。
この、南京大虐殺は、中国が「日本悪玉論」を世界に広げるための情報戦の1つだ。
原爆と真珠湾は同等?
また、真珠湾への訪問が世界に与えるメッセージにも注目すべきだ。
たとえ日本政府やホワイトハウスが広島訪問と真珠湾訪問の因果関係を否定しようとも、オバマ大統領が現職大統領として初めて広島を訪問した後に真珠湾を訪問することは、「お互い被害を出したシンボルの『戦地』を訪問することで、和解する」というメッセージとなる。
これでは、広島への原爆投下と、日本軍による真珠湾攻撃が同等だとアピールするようなものだ。しかし、軍人でもない一般市民を狙った市街地への原爆投下と、軍事施設のみを対象とした真珠湾攻撃とでは性質が異なる。自身の行為が世界にどう見られるか、安倍首相は理解しているのだろうか。
宗教行為としての慰霊
大川隆法・幸福の科学総裁は、12月7日に千葉・幕張メッセで行われた「エル・カンターレ祭」での講演「真理への道」(『繁栄への決断』所収)で、安倍首相の行為を次のように指摘している。
「 『日本国の首相が靖国神社に慰霊することは、政教分離違反になり、憲法の定めているところに反する』という主張が正しいとするならば、ハワイに慰霊に行くことも政教分離違反のはずです。また、『慰霊』という言葉を安易に使ってほしくありません。これは、宗教的な考え方であるのです 」
安倍首相が、「慰霊」を単なる政治的外交手段の1つとして考えているのならば、先の大戦で亡くなった方々へ祈りを捧げる資格すらないだろう。今回の訪問は、日本から世界に誤ったメッセージを発信しかねない。
(片岡眞有子)
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