安倍晋三首相は、26、27日に米ハワイを訪問し、オバマ米大統領と共に真珠湾で、真珠湾攻撃による戦死者を慰霊すると発表した。6日付各紙が1面で報じている。
現職の首相が米大統領を伴って真珠湾を訪れるのは初めてのこと。5月にオバマ氏が、現職大統領として初めて、被爆地である広島を訪問したことに呼応する意味もあると見られている。安倍首相は米ハワイで、オバマ大統領と最後の首脳会談も行う予定であり、日米の関係を強調する意図が見られる。
今回の決断は、産経新聞などの保守系メディアから、朝日新聞などの左派メディアまでが、揃って評価している。
ホワイトハウスも5日、「(オバマ大統領と安倍首相は)共通の利益や価値で結び付いて、かつての敵を最も緊密な同盟国にした和解の力を示す」と声明を出した。米メディアの論調も、「安倍首相は、アメリカを第二次大戦へと巻き込んだ、75年前のハワイへの攻撃の場所を訪れる、初の日本のリーダーとなる」(5日付米ニューヨーク・タイムズ紙電子版)など、評価する向きが強い。
安倍首相は、5日の発表の中で次のように述べている。
「犠牲者の慰霊のための訪問だ。二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない、その、未来に向けた決意を示したい。同時に、日米の和解の価値を発信する機会にもしたいと考えている」
ここから、オバマ大統領の広島訪問、安倍首相の真珠湾訪問を経て、日米が「和解」したというメッセージを、世界に発信したいという意思が読み取れる。確かに、日本の安全保障の面においても、世界の秩序を守る意味においても、日米の協力強化は不可欠である。日米が、大戦を乗り越えて、互いに協力し合い、世界平和へ貢献するということは、世界に発信してしかるべきであろう。
しかし、「和解」をアピールする以前に、一つプロセスが必要なのではないか。
「常識」とされる戦勝国史観
アメリカでは、「真珠湾攻撃によってアメリカは大戦に巻き込まれた」とする説が常識となっているが、この前提を見直さないまま強引に和解に進めば、日本が「日本悪玉論」を肯定するというメッセージを世界に発信することとなる。
しかし実際は、日本が戦争を仕掛けたのではなく、当時の米大統領、ルーズベルトが、日本を戦争に踏み込まざるを得ない状況に追い込んだ。
真珠湾攻撃に至る前、ルーズベルト大統領は欧米各国と連携し、ABCD包囲網を形成。日本に経済封鎖を課した。それにより、日本には海外からの物資が入ってこなくなり、資源に乏しい日本は、国民生活を維持できないほど困窮する。
日本政府は、米国に対して包囲網を解くよう交渉するが、米国から突き付けられたのは、最終通告とも言える、「ハル・ノート」であった。これは、日本に対して、大陸における一切の権益を放棄することを一方的に求める内容であり、日本がこの条件をのんだとしても、アメリカによる経済封鎖の解除は明言されていない。日本からの交渉に応じる気は全く無いという、アメリカからの事実上の宣戦布告であった。
しかも、このハル・ノートの存在は、当時のアメリカ国民はおろか、アメリカ議会にも知らされていなかった。そのことは、当時の共和党、下院議員であったハミルトン・フィッシュが、自著『FDR:The Other Side of the Coin』で明らかにしている。
アメリカ国民の多くは、真珠湾攻撃を単に日本からの「奇襲攻撃」「スニーク・アタック(卑怯な攻撃)」であったと考えている。歴史を公正に見ているとは言い難い。
歴史を共有してこその「和解」
大戦終了から70年以上経った今もなお、事実が秘され、戦勝国側から見た歴史のみが常識として語られている。安倍首相は、「和解」をアピールする以前に、戦勝国の視点のみを正義とする現状に対し、歴史を公正に判断することの重要性をこそ、世界に発信すべきだろう。
戦勝国史観に追従するでもなく、単に反米に陥るのでもなく、歴史を公平に見直してこそ、日米は大戦という過去を乗り越え、世界平和に向けて協力し合うことができる。(片)
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