原発事故が起きた福島県から横浜市へ自主避難していた中学1年の男子生徒が、いじめを受けて不登校になっている問題で、この男子生徒が小学5年の時に加害者に金銭を渡していたことを学校側や横浜市教育委員会が把握していながら、対応していなかったことが分かった。

市教委がいじめ防止対策推進法に基づく第三者委員会を設置したのは今年の1月であり、それまで1年半も放置されていたことになる。

2013年にいじめ防止対策推進法が施行されているにも関わらず、学校ぐるみの「いじめ隠蔽」は、その後も多発している。同法には、いじめを隠蔽した教師への処罰が明記されていないため、抑止力として機能していないことも大きな要因ではないか。

「俺たちを信用しないのか」

文部科学省が設置した「いじめ防止対策協議会」は10月、いじめを隠蔽した教師が懲戒処分となりうることを周知する検討を始めていた。取りまとめの草案には、「いじめの情報共有は法律に基づく義務」「対応を怠ることは地方公務員法上の懲戒処分となり得ることを周知する」との文言が入っていた。

だが、10月末の同協議会の議論では、教師への処罰を明記するところから、大きく後退した。年に数百件のいじめ相談を受け、さまざまないじめ隠蔽事件を解決に導いてきた「いじめから子供を守ろう ネットワーク」の井澤一明代表は本誌の取材に対し、こう話す。

「ネットワークの関係者が協議会を傍聴したのですが、この日、教職員の懲戒処分の議論が紛糾しました。委員たちは、『現場の教師たちが俺たちを信用しないのかと怒っている』『遺族は懲戒処分を望んでいるわけではないと思う』などの理由を取り上げ、懲戒処分について明記することに猛反対したといいます。

その時に、一人だけ、ある弁護士の委員が『いじめ防止法が施行されてから3年の間に起きている事実を見れば、いじめ防止法に義務づけられている情報共有を怠った場合には、地方公務員法により懲戒処分になりうることを明記すべきである』と発言したのですが、多勢に無勢で、「懲戒処分になりうる」 と明記することは見送られてしまいました。

この委員が、『反対意見があるとか、事例として書くとか、残してほしい』と言ったことにより、11月に発表された提言では、欄外に、かろうじて『教職員がいじめの情報共有を怠り、地方公務員法上の懲戒処分を受けた事例もある』という文字が残ったというわけです。

学校関係者が嫌がっていると聞いて、逆に、懲戒処分は必要であることが確信できました。ちなみに、この取りまとめが発表された直後に、今回の横浜市のいじめ事件が発覚しています」

学校教育の世界に「善悪」の価値判断を

井澤氏は、17日朝に放映された日本テレビの情報番組に、横浜市のいじめ事件で学校が調査に乗り出そうとしなかった背景について、「学校長の評価が下がり、その後の行き先に影響が出てくることが実際にある」とコメントを寄せている。「いじめは犯罪」であるという認識が、まだ教育界の常識にはなっていないようだ。

学校側や教師の自己保身を助長する仕組みで、児童・生徒、その家族が長期間、「いじめ」という名の犯罪被害に苦しんでいる。学校教育の世界に善悪の価値判断をもたらすことが必要である。(晴)

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