富裕層は海外に資産を持つだけで「国際指名手配犯」扱いとなるのか――。

国税庁はこのほど、海外で投資や取引を行なっている富裕層や企業を監視する取り組みとして、「国際戦略トータルプラン」を公表した。

戦略は3本柱からなる。

一つ目が、海外に持つ資産を申告させる「国外財産調書」を活用するなどして、情報収集を強化する(情報リソースの充実)。

二つ目が、国際課税に精通した富裕層専門のプロジェクトチームなどを拡大させる(調査マンパワーの充実)。

三つ目が、各国と協調して、富裕層の資産に関わる情報を交換する(グローバルネットワークの強化)。

今回のプラン策定の背景として国税庁は、「富裕層の海外への資産隠し」「国際的な租税回避行為」に対して、国民の関心が大きく高まっていることを挙げている。

「租税回避」は犯罪ではないが、まるで犯罪人を追うような捜査網の張り方だ。

重税は財産権の侵害!?

しかしそもそも、富裕層が逃げ出したくなるほどの重い税金が、「日本国憲法」の29条に保障される財産権を侵しているという説は根強い。

本来、財産権の保障が"原則"で、財産権の一部を否定する課税はあくまで"例外"のはずだ。

例えば、激しい累進課税は国会議員によって定められたものではあるが、あくまで多数決の結果だ。これは「所得が少ない多数派による、少数派への抑圧」と見ることもできる。

4%が所得税の5割を負担

日本の税収の大部分を占める所得税に関して言えば、たった4%の国民が、税収の5割を負担している。富裕層がどれだけ節税しようが、普通の国民をはるかに凌ぐ額の税金を納めているはずだ。

さらに2015年からは所得税の「累進性」が強化され、最高税率が40%から45%に引き上げられた。住民税も考慮すれば、税率は55%にもなる。つまり彼らは月に20日働いたとしても、そのうち11日の労働はなかったことにされているということだ。江戸時代なら一揆が起こる「六公四民」に近づいている。

その他にも2014年には、株で得た利益に課せられる税率も2倍になっている。

これだけの重税を課せられれば、合法的な範囲なら少しでも逃げたくなるのは当たり前だ。

"節税"よりも"奪税"を問うべき

そこから逃れようとする富裕層を国家権力で追い回すことが、本当に正義なのだろうか。

「租税回避」「節税」ばかりを問題視し、政府による"奪税"の問題を問わない議論は、バランスを欠いているのではないか。

(馬場光太郎)

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