自民党も民進党も、消費税をいずれ10%に上げることを前提に、政策論争を行っています。

それに対して幸福実現党は「消費税を5%に戻すことで、景気回復を目指す」と主張しています。消費税を下げることなど、本当に可能でしょうか。

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――私には、安倍政権の「増税延期」さえも、選挙向けのバラマキと同じように見える。そこへ来て、さらに「減税する」という意見は、無責任に過ぎる。財源はどのように確保するつもりなのか。

消費税を上げるたび政府債務は「倍増」

そもそも「増税したら財源が安心」「減税したら財源が不足」という論理自体を、検証することが必要です。

過去の消費税上げと、政府債務の関係を見て見ます。

  • 消費税3%を導入した翌年の1990年、政府債務残高は300兆円台でした。
  • 消費税を5%に上げた翌年の1998年、政府債務残高は600兆円台でした。
  • そして消費税を8%、そして10%に上げようとしている現在、政府債務残高は1200兆円台です。

様々な要因があるでしょう。しかし、数字だけを見れば、消費税率を上げれば上げるほど、政府債務は「倍々ゲーム」で増えているように見えます。

増税すると、逆に財源が減るのです。

8%にしなければ税収はもっと増えていた!?

その理由は、「景気が冷え込むこと」にあります。

消費税3%を導入した翌年は、税収が前年と比べて5兆円増えました。しかし、その年をピークに20年間、一度も当時の税収を上回ることはありませんでした。

消費税率を5%に上げたその翌年も、所得税収と法人税収はトータル4.5兆円も減りました。

今回の増税も同じです。

15年7~9月期時点で、GDPは約530兆円でした。もし消費増税しなければ、GDPは今頃、約550兆円まで達していたという試算もあります(経済学者の高橋洋一氏の試算)。

GDPがあと20兆円増えていたなら、所得税や法人税もさらに増え、5%のままでも消費税が増えていたはずです。

さらに、将来に希望が持てた企業は、しっかり設備投資をしたので、アベノミクスの金融緩和も「空振り」では終わらなかったでしょう。

こうした数字を素直に見れば、「消費税を上げれば、景気が後退し、逆に税収が下がる」わけです。お店で言えば、「無理な値上げをすれば、売り上げが減る」のと同じことです。

逆に言えば、減税をして、経済成長をすることが、財政再建への近道です。

――財政再建を、経済成長に依存するプランは、あまりに危険な賭けではないか。日本経済はすでに成熟しており、途上国のように大きな成長は見込めない。

アメリカは1990年前後からGDP3倍

主要国のGDP推移

「増税で税収を増やそうとする」という、すでに失敗した方法をとるほうが、よほど危険な賭けです。

「成熟」とは言いますが、世界最大の経済大国アメリカのGDPは1990年前後から3倍になっています。その間、日本のGDPはほとんど増えていません。先進国経済であることは、成長しない理由にはなりません。

「異常」を「普通」に戻すために、税負担を減らすなどの政策を行なう発想をとるべきです。

――消費税には、社会保障を充実させる目的がある。この社会保障を維持する方法はあるのか。

社会保障は「毎年500万円の仕送り」

そもそも、「消費税が"低い"」ことよりも、「社会保障費が異常に高い」ことのほうが、大問題のはずです。

65歳以上の一人当たりの社会保障費は、2010年時点で253万円です(原田泰・元早大教授の試算)。

これは、ある現役家庭がリタイアした父母2人に、約500万円を毎年「仕送り」しているのと同じです。

児童のいる働き盛りの世帯の平均所得は688万円なので、とても出せる金額ではないはず。制度自体に無理があります。

2%の増税分は1年でチャラ

さらに、この社会保障の総額は、高齢化などに伴って、毎年3~4兆円のスピードで増えています(年金、医療保険、介護保険などの合計)。

一方、消費税を2%上げても、増える税収は年に4兆円かそこら。1年でチャラです。

ゆくゆくは消費税70%へ

この量とスピードで膨れ上がる社会保障をまかなおうとすると、消費税は2060年の時点で、68・5%になる試算です(原田泰・元早大教授の試算)。日本経済は、壊滅してしまいます。

そもそも国民負担率43%は異常

そもそも日本の税金は高すぎます。

税金と、年金や医療、介護といった社会保障を合わせた「国民負担率」を見てみると、昭和時代は20%台だったのが、今や43.4%にも及びます。もはや、江戸時代の「五公五民」です。

ここにメスを入れず、「増税は当たり前」という前提で話がされている状況に疑問を感じます。

政府は、「年金の受給開始時期を段階的に引き上げる」「積み立て式に移行する」「医療保険制度を見直す」といった改革案を、国民に問うべきです。

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