一般住宅に有料で訪日観光客を泊める「民泊」を認める条例がこのほど、東京都大田区で施行された。これにより、訪日客増加による宿泊施設不足が解消されると期待されている。

増加する訪日客とホテル不足

訪日外国人数は2015年に1900万人を突破するなど(12月19日時点)、近年では過去最高水準で推移している。しかし問題なのがホテル不足。羽田空港を抱える大田区は、2020年のオリンピック開催を見すえて、より積極的な問題の解決策を探っていた。

そこで目をつけたのが民泊だった。民泊とは、マンションの空き部屋や空き家を持っているオーナーが、宿泊したい旅行者に部屋を貸す事業。ただ、本来宿泊業は、防犯、防災対策や環境衛生基準の順守が必須であり、営業認可がないと運営できない。

今回、大田区は国家戦略特区として規制緩和の対象となっている。そのため滞在施設に関する法律の適用除外となり、自治体で条例を定めることになる。この条例で民泊を認めたのだ。

観光客目線でおもてなしを考える

民泊のルール作りはまだ試行錯誤中でもあるため、すぐにホテル不足解消につながるか、新たな宿泊施設として認識されるかは未知数だ。しかしきちんとしたルールをつくって適正に運用されれば、新しい日本の旅の提案にもなるだろう。

民泊の貸し手と借り手である旅行者をマッチングさせる企業「Airbnb」(エアビーアンドビー)のホームページにアクセスすると、「地元の家で暮らすように旅をしよう」という言葉が飛び込んでくる。「地元」感覚と「旅」が一緒になった新たな体験を売りにしているのだ。

ターゲットを絞って成功した熊野古道

2013年6月に、政府は観光立国の取り組みの一環でビザの発給要件を緩和した。これに伴い今後も一定の割合で海外観光客は増加しそうだ。訪日客の旅行目的第1位は、アジアの人は「ショッピング」、欧米圏の人は「歴史や文化に触れたい」というように分かれている(2014年観光庁調べ)。それぞれの目的に合ったおもてなしを用意していきたいところだ。

歴史や文化に触れたいという欧米圏の旅行者獲得に成功しているのが、世界遺産にもなった巡礼路である熊野古道(くまのこどう)だ。熊野古道の入り口である和歌山県田辺市は、外国人の視点を取り入れて受け入れ体制を築いてきた。英語での案内表記の統一や、民宿や土産物屋に外国人観光客の案内の仕方をあらかじめ共有しているという。

観光客目線で日本の魅力を見つける

観光客のニーズに応えることで、これまで見逃してきた、新たな日本の魅力を発見できる可能性もある。民泊については、日本側は空き家の有効活用や、より身近に日本文化を知ってもらえること、地域の発展も促進できるというメリットが考えられる。訪日客には異国での日常という体験や、ホテルや旅館よりも安価に宿泊できるというメリットがある。

視点を変え、ルールを整備すれば、新たな付加価値をつくることができる。世界中から集まった人をファンにしてしまう日本の魅力は、まだまだ眠っているはずだ。

(HS政経塾 表奈就子)

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