2016年3月号記事
「下町ロケット」「半沢直樹」になぜハマるのか
空気に流されない生き方
contents
マスコミにとって「部数や視聴率こそ、正義」なのか?
「五郎丸ブーム」など、マスコミはさまざまな「空気」をつくり出す。
だがその「空気」が、私たちの未来を左右するとしたら──。
マスコミのつくる「空気」の正体とその見抜き方を探る。
(編集部 山本泉)
2009年の衆院選総選挙では、民主党が308議席を獲得。議席の占有率は64.2%に及んだ。
2011年大阪府知事選・市長選のダブル選挙では、党代表の橋下氏が市長に当選し、話題になった。
過激なものこそ注目される!? 橋下徹氏のツイッター発言
橋下徹
こらっバカ文春!今、東京発の新幹線の中でバカ文春を読んでるぜ。(中略)いい加減な記事を書くな!(中略)だいたいな、人の悪口は、その人の前で言えと育てられたんだ。(2011年12月21日)
橋下徹
なぜストリップに助成金はダメなのか。自称インテリや役所は文楽やクラシックだけを最上のものとする。これは価値観の違いだけ。ストリップも芸術ですよ。(以下略)(2012年8月12日)
2009年、テレビや新聞には、「政権交代」というフレーズが何度も登場した。同年8月の総選挙に向けた、当時の民主党の選挙スローガンだ。
これは客観的な数字にも表れた。本誌が11年、全国紙など計46紙を調べたところ、選挙の公示日から投票日までの2週間で、「政権交代」というフレーズが入った記事の数は、自民党の選挙スローガン「責任力」の10倍以上だった。
結果はといえば、国民の圧倒的な支持が集まり、民主党政権が誕生。マスコミには「空気」をつくり出し、特定の候補者や政党の当選を左右する力がある。
この流れは同年1月、米民主党の大統領候補だったオバマ氏が“Change!" “Yes, we can!"というフレーズで熱狂的支持を得たことに似ている。
しかし、政権を運営する能力や政策については十分に検討されなかった。当時は北朝鮮がミサイル発射実験を行うなど、国防の危機が問題となっていた。これが選挙の争点となってもおかしくなかったが、民主党は「子ども手当」や「年金改革」など耳に心地よいバラマキ政策ばかりを打ち出した。
結局、民主党時代にアメリカとの関係は悪化し、経済も不況に陥った。政権は3年で終わり、民主党には国政を担う知識や能力がなかったことが明らかになった。
だがマスコミには、「政権交代」をあおったことを反省する姿勢は見られず、日本を迷走させた責任を取っていない。
橋下劇場が続いていいのか?
前大阪市長・橋下徹氏に関する報道も同じだ。
「今の日本の政治で一番重要なのは独裁」(11年6月、大阪府知事・市長のダブル選挙前)など、橋下氏の過激な発言は、メディアの注目を浴びた。
橋下氏が大阪の地域政党「大阪維新の会」の代表だったころも、同党に国会議員が一人もいないにも関わらず、国政政党であるかのようにテレビで取り上げられた。
しかしマスコミは、「議員数が足りず、政党要件を満たしていない」ことを理由に特定の政党を報じないこともある。 報道方針は一貫しておらず、あえて言えば、「部数や視聴率が取れるかどうか」にあるようだ。
フリーライターの武田砂鉄氏は橋下氏について、「勢い任せのテキストに『マジかよ!』と反応してくれる人の数が勝るのであれば、それは彼にとっては正しい」(注1)と批判する。一連の橋下氏の過激発言は、マスコミの性質をうまく利用していると言えるだろう。
だが、圧倒的な人気の裏で、政治家としての成果には疑問が残る。例えば14年までの10年間で大阪府から転出した企業は約2400社と、転入した約1500社を大きく上回る(注2)。大阪市の生活保護受給率も、全国平均の約3倍のままだ。
(注1)2015年11月18日付ニューズウィーク電子版。
(注2)2015年8月11日帝国データバンク「特別企画:大阪府・本社移転企業調査」。
共感を得やすい「不満」「嫉妬」
マスコミは、多くの人が共感しやすい「嫉妬」や「不満」「恐怖」をあおる出来事を取り上げがちだ。そこには「何が正しいか」という価値判断は働かない。
例えば民主党への政権交代の時は、国民の中に「従来の政治への不満」があった。橋下氏の大阪都構想に人気が出たのも、潜在的な「東京への嫉妬」をつかんだようでもある。
しかし、嫉妬や不満ばかりに注目すると、時に、何が真実なのかが見えなくなる。
マスコミ報道に接する時は「誰が」でなく「何が」正しいかを見る姿勢を大切にしたい。こうした「メディア・リテラシー」、つまり、メディアの情報を見極める力が高まれば、マスコミの報道も正されていくだろう。
ネットの"民意"で民主主義は成り立つか 佐々木俊尚氏
本当は空気を破りたい日本人
「何が正しいか」を語ろう