イランが核開発を停止したことを見た欧米はこのほど、イランに対する経済制裁を解除した。
英BBCによると、制裁解除の内容は主に次のようなものだ。
欧州連合(EU)は、イランとの貿易禁止を取り消す。
国連は、イランに対する軍事技術や核技術関連の制裁を解除する。
アメリカは、イランが世界の金融システム(主にアメリカがコントロールする)を通じて取引をできるようにする。
米国民や企業は、依然としてイランと取引できない。欧米による、テロに関係するイラン人に対する制裁は解除されない。
欧米による、1000億ドル(約12兆円)にも上るイランの資産凍結を解除する。
核合意はイランによる時間稼ぎか? それとも欧米の陰謀か?
合意では、イランは10年間核兵器の開発ができないことになっている。しかし、イランは核技術のノウハウを失うわけではない。それどころか、その10年の間、欧米との貿易で新たな核技術を輸入することができるのだ。
これは、「欧米の攻撃を受けずに、核開発の基礎となる技術を手に入れる」ための時間稼ぎと考えることもできる。北朝鮮が長年、欧米や日本に対して使ってきた「時間稼ぎ」交渉と似たようなものだ。
この合意で一番「損」をするのは、サウジアラビアかもしれない。
イラン制裁解除で、毎日約50万~100万バレルの石油が新しく市場に出回ると言われている。GDPの45%と、国家財政の80%が石油の輸出に依存しているサウジは、経済的に苦しい立場に立たされるだろう。イランへの経済制裁が解除された日、サウジ株式市場は7%も暴落した。
また、サウジにとって問題は経済面だけにとどまらない。サウジとイランは、それぞれスンニ派とシーア派の代表国として以前から犬猿の仲であり、お互いの勢力が拡大することを快く思っていない。欧米メディアは、イランが中東地域の大国として台頭してくることは間違いないと報じており、中東の覇権をめぐって両国が衝突に向かう可能性もある。
制裁解除をめぐるアメリカの真意がどこにあるかは分かりづらいが、欧米がイスラエルを守るために、「サウジとイランを戦わせて、サウジ側に付く」ことも考えられる。
今回の合意が、次の紛争につながることもあり得るのだ。
裏で暗躍する中国や北朝鮮
イラン制裁解除に伴い、大量の中国製兵器がイランに流入する可能性を、米ナショナル・インタレスト誌が指摘している。特に、巡航ミサイル、無人機、そしてミサイル防衛システムの開発に関するノウハウの提供は、イランの軍事力を飛躍的に増強させるだろう。
また、イランは以前から、北朝鮮と裏でつながっているとも言われてきた。北朝鮮が東アジアで有事を起こしたとき、同時に中東でイランが動けば、アメリカも厳しい選択を迫られることになる。
エネルギー安全保障の面でも、サウジとイランの対立が紛争にまで発展すれば、日本に向かう石油が通るホルムズ海峡が閉鎖されることも考えられる。
イラン情勢は、北朝鮮、中国、そしてエネルギー問題などと複雑に絡み合うため、日本にとっても他人事ではない。日本はあらゆる可能性を吟味し、最悪の事態に備えるための政策を推し進める必要がある。(中)
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