政府はこのほど、海外のテロ情報を収集する政府の「国際テロ情報収集ユニット」を発足させた。
来年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)や2020年の東京五輪に向けてテロ対策を強化していく。
日本初のテロ情報収集組織
同組織の発足は、当初は来春の予定だったが、パリ同時多発テロを受けて前倒しした。テロの情報収集に特化した組織を政府に置くのは初めてだ。
情報収集機関と言えば、2013年12月に外交問題や国防問題、安全保障の政策を審議、立案する「国家安全保障会議(日本版NSC)」が立ち上がった。同年1月に起きたアルジェリアでの邦人人質事件が契機だ。
しかし、今年イスラム国で起きた日本人殺人事件で、日本は英仏やヨルダンなど友好国に頼らざるを得ず、情報収集能力の欠如を露呈した。イスラム国による殺害脅迫事件の政府対応を検証した報告書では、体制強化の必要性が指摘された。
今後は「国際テロ情報収集ユニット」が各省庁にて個別に収集・分析している情報を連携させ、国家安全保障会議とも情報共有していく。
遅れを取る日本の情報収集機関
世界を見ると、日本の情報活動は遅れを取っている。
日本は在外公館など限られたルートに情報収集をゆだねているが、主要国の情報機関では豊富な予算と特別な訓練を受けた情報収集の専門集団が世界中で活動している。
国際社会と協調する「テロとの戦い」には、人材育成や人材拡大など乗り越えるべき課題も多い。
日本に独自の情報機関が無いのはGHQの支配が影響
歴史を振り返ると、日本が情報機関で遅れを取ったのは、戦後の連合国総司令部(GHQ)による占領が影響している。
京都大学名誉教授で歴史学者の中西輝政氏は、「(GHQは)本来の情報機関だけは絶対につくらせようとしなかった。まさにこれが、アメリカによる戦後日本の『非武装化』の中心テーマだった」と述べている。(『情報亡国の危機』より)。
アメリカは、日本の情報機関を奪うことで、目と耳の部分をアメリカに依存せざるを得ない状況を生み出し、戦後日本の「対米依存構造」を作り上げたのだ。
一方、敗戦国のドイツは、情報機関を作らなければ真に自立できないと考え、首相が強く推進した。ドイツ連邦情報局(BDN)は今や、世界のトップ5に入る大機関に成長した。
イスラム国問題のような、キリスト教とイスラム教の対立は今後も続くであろう。さらに中国は世界的に軍事拡張を進めており、日本の安全保障の重要性は高まるばかりである。
日本は米国に依存し続ける体制から脱却し、国民の生命・安全を守れる自立した国家となるよう期待したい。
(HS政経塾 油井哲史)
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