家族連れでごった返す「大虐殺記念館」

幸福実現党総務会長兼出版局長

矢内筆勝

プロフィール

(やない・ひっしょう)朝日新聞を退社後、幸福の科学に入局。主に広報部門を担当した後、月刊「ザ・リバティ」編集部を経て、広報局長、常務理事等を歴任。NPO(非営利組織)「いじめから子供を守ろう!ネットワーク」会長に就任し、いじめ相談の傍らいじめ問題解決に向けて、全国でシンポジウムを開催。主な著書に、「いじめは犯罪!絶対に許さない」(お茶の水学術事業会)がある。その他、「朝日新聞の偏向報道から子供の未来を守る!会」「中国の脅威から子供の未来を守る会」を設立、会長。 公式サイト http://yanai-hissho.hr-party.jp/

中国の軍事パレードは、これまで中国共産党が現在の中国を建国した10月1日(国慶節)を記念して行うのが通例でしたが、今年、習近平国家主席はあえて、9月3日の「抗日戦争勝利記念日」に合わせて行いました。

その狙いや背景を探るべく、幸福実現党・国防部会の会長である私・矢内とメンバーの横井基至さんの二人は、9月2日から8日の日程で、パレードが行われた北京市内と南京の「南京大虐殺記念館」、株暴落で揺れる上海を視察してきました。

現地で私たちが見た、中国共産党による「反日」の実情と、「中国の今」の一端を、全5回に分けて報告します。3回目の今回は、南京の「南京大虐殺記念館」の様子と、「反日教育」を強めざるを得ない中国の事情について。

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北京の視察を終え、私たちが向かったのは、南京の「南京大虐殺記念館」(侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館)です。

習近平は国家主席に就任して以来、国際社会を舞台に歴史認識をめぐる対日攻勢を展開しています。曰く、日本は南京で罪のない30万人の市民を虐殺し、中国大陸全体で3500万人もの人民を殺傷した――。最近では、国連のユネスコに「南京大虐殺」と「従軍慰安婦」に関する資料の記憶遺産申請を行うなど、日本に対して執拗な「歴史戦」を仕掛けています。

今回、私たちが訪れた「南京大虐殺記念館」は、その「歴史戦」の中心地、“メッカ"といっても良いでしょう。

「南京大虐殺記念館」は、1985年に建設されました。敷地の広さは約4.7haと、東京ドームとほぼ同じ面積の巨大な施設です。

現地で何よりも驚いたのは、その見学者の多さです。当日は「祝日」ということもあり、入り口は家族連れや若者たちでごった返し、まるで巨大な「テーマパーク」のようです。列の最後尾から入口に辿り着くまでに約30分。入場料は無料です。

あらゆる“虐殺写真"を展示

内部には、日本軍が南京で行ったとされる膨大な量の“虐殺"の「証拠写真」が展示されています。

虐殺、暴行、斬首、溺死、刺殺、焼殺、生き埋め、幼児への残虐行為、女性たちへの強姦、掠奪、放火、拷問、慰安婦化――。日本軍が30万人の南京市民を、いかにあらゆる残虐な方法で殺していったかが、畳みかけるように展示されています。

それらの写真の大部分は、合成や捏造写真、日本軍と関係のない国共内戦時の写真、または出所不明な写真などであることは、すでに日本の研究者らによって検証されたものばかりです。

また、30万人もの「南京大虐殺」自体が、戦勝国であるアメリカと中国国民党政府が作り上げた冤罪であることも、日本側の証言や研究、検証によって既に明らかになっています。

しかし、この虐殺記念館では、そうした日本側の主張や反論とは一切無関係に、日本軍による残虐な蛮行が「真実」として展示されているのです。

さらにこの記念館の特徴は、写真だけでなく、虐殺されて遺棄されたとされる大量の白骨(万人坑)のレプリカや、虐殺を目撃したとされる証人の証言ビデオ、日本軍が使用したとされる拷問の器具など、実際に見て、聞いて、五感を通して体感できるような形で展示されていることです。

つまりこの記念館全体が、単なる記念館や博物館ではなく、まして日中間の歴史の違いを検証する場所でもなく、中国政府による明確な意図――「国民に対して日本軍の蛮行を信じさせる」――に基づいて建設されているのです。

中国人の9割が「日本は嫌い」

そうした中国政府の目的は、少なくとも国民に「嘘の歴史」を信じさせるという点においては、達成されていると言って良いでしょう。

私たちは記念館を出て、見学したばかりの若者たちに、「日本や日本人についてどう思いますか?」との質問をぶつけてみました。

地方から来た大学生たちカップルは、私たちが日本人だと知って、少し驚きながらも、言葉を選んで答えてくれました。「日本人に対して良い気持ちは持っていません。なぜ日本政府は、(南京大虐殺のような)客観的な歴史を否定するのでしょうか。歴史の真実を率直に認めてほしい。強い憤りを感じます」

また別の日本語を話せる女性は、「日本がかつて中国で行ったひどい行為を考えると、胸が痛くなります。私は日本語を勉強し、アルバイトで日本人と接したことがあるので、今の日本人が優しく、礼儀正しいことを知っています。しかし、日本人と会ったことも、日本に行ったこともない、私の回りにいる普通の中国人の9割は、日本人を嫌いだと思っています」

「中国人の9割が日本を嫌い」――そんな調査結果がよく報道されていますが、それはある意味で事実でしょう。

確かに、生まれてから毎日のようにテレビで「抗日戦争」のドラマに登場する残虐な「日本鬼子」を見せられ、小学校から「反日教育」を教えられ、幾度となくこうした「抗日記念館」を見学させられれば、日本や日本人が嫌いになるのは、当然です。

「反日」で生き延びる中国共産党

中国政府によるこうした国民への「洗脳工作」は、1990年代から当時の国家主席・江沢民によって開始されました。

きっかけとなったのが、1989年の「天安門事件」です。この時、中国共産党(人民解放軍)は、民主化を求める学生や一般市民たちを虐殺しました(その数は数千人とも1万人を超えるとも言われていますが、正確な数字は不明なままです)。

その結果、中国共産党の威信は低下し、一党独裁体制は危機に直面しました。そこで、外敵を作ることで国民の政府への不満を外に向け、共産党への求心力を高めるために生み出したのが、「愛国主義教育」と呼ばれる「抗日戦争史観」、いわゆる「反日」教育なのです。

江沢民は中国全土に約100カ所(現在は約200カ所)の「愛国主義教育基地」と称する施設を建設し、子供たちに見学を義務付けました。同時に、テレビや新聞、映画など、あらゆるメディアを通した反日教育が、徹底されていったのです。

「反日教育」の核となるものが、日本軍の蛮行です。その論理を簡単に説明すれば、次のようになるでしょう。

「かつて、日本軍が中国を侵略し、残虐非道な虐殺行為を行った。南京では30万人もの市民が虐殺され、中国全土では実に3500万人が殺傷された。その悪魔のような日本軍に対して、敢然と立ちあがり、抗日の戦いを展開したのが中国共産党であり、その指導者が偉大なる毛沢東主席である。偉大なる中国共産党はついに日本軍を打ち破り、現在の中国を建国した。そして中国共産の指導の結果、現在の豊かで強い中国が存在する。だから中国共産党が一党独裁体制を堅持することは正当であり、人々は共産党の指導に従い、現在の体制を堅持しなければならない」

ですから彼らにとって、過去の歴史が事実であるかは関係がありません。逆に、日本軍は残虐であればあるほど都合が良いのです。なぜなら、日本軍が残虐で極悪非道であればあるほど、それを打ち負かした中国共産党が「偉大」となり、威信が高まるからです。

(第4回へ続く)

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