日本と中国の間で激しい受注競争が行われていたインドネシアの高速鉄道計画について、菅官房長官は29日、来日中のインドネシアのソフヤン・ジャリル国家開発企画庁長官から日本の提案を採用しない考えを伝えられた。ソフヤン長官は「日本と中国の双方の提案は再検討が必要だといったんは判断したが、その後、中国側からインドネシア政府の財政負担を伴わずに事業を実施できるという新たな提案があった。中国提案を歓迎したい」と述べた。29日付各紙が報じた。

日本案では、資金調達はインドネシア政府の保証が必要な円借款を利用することになっていた。菅官房長官は「インドネシア政府の財政負担や債務保証を伴わずに事業を実施できるという中国の新たな提案は、常識では考えられず、現実的にうまくいくかどうかは極めて厳しいと思う」と述べた。

インドネシアにとって日本は最大の援助国であり、日本は戦後からさまざまなインフラ事業の援助をしてきた。インフラ輸出を成長戦略の柱に据える安倍政権にとって、今回の受注を逃したことは大きな痛手だ。

世界でプレゼンスを高める中国

中国の習近平国家主席は、国連でも自国のプレゼンスを高めるための動きを見せていた。28日の国連総会演説の中で、途上国支援などのために、10年間で総額10億ドル(約1200億円)規模の「中国・国連平和発展基金」を創設すると表明した。また、中国が8000人規模の国連平和維持活動(PKO)待機部隊を創設することも明らかにした。

習国家主席はさらに、アフリカ連合(AU)に対して今後5年以内に総額1億ドル(約120億円)の無償軍事援助を提供して危機対応部隊などの設置を支援するという(29日付読売新聞)。

"無償"の裏にある中国政府の思惑には注意すべき

途上国への無償のインフラ輸出や軍事援助でプレゼンスを高めようとするこうした中国の行動には注意が必要だ。「無償で援助」という甘い言葉に誘われて契約を結ぶと、現地人ではなく中国人の雇用先になったり、中国が過剰生産した製品を売るマーケットとして利用されたりして、結果として現地の産業の発展に寄与しない可能性がある。中国がインフラ事業を援助することで恩を売り、覇権を拡大する目的を果たそうとする恐れもある。中国支援の本質は武力を背景にした「勢力の拡大」であることを忘れてはならない。

それに対して、日本は現地の人材を養成し、その国の発展に寄与する形での支援をアジアの途上国に行ってきた実績がある。また日本の新幹線やリニアは、コスト面では中国に勝てなくとも、非常に高い性能と安全性を持つ。高度な技術を持つ日本であれば、本当の意味で「ウィン・ウィン」の関係を築くことができる。

アジアやアフリカ諸国は、「タダより高いものはない」ということを肝に銘じ、目先の利益に飛びつくのではなく、"無償"の裏にある中国の野心に注意する必要があるのではないか。(真)

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