アメリカでは、来年11月の大統領選に向けて名乗りを上げた人々の動向に注目が集まっているが、民主党の本命と目されているヒラリー・クリントン元国務長官に、黄色信号が点灯し始めている。

今年3月、ヒラリー氏がオバマ政権下の国務長官時代に、公務に関するメールのやり取りを個人メールで行っていたことが報じられたが、8月に入り、司法省や連邦捜査局(FBI)が捜査を始めたことから、「法律上の問題」として、騒ぎが大きくなっているのだ。

メール問題は、違法行為か、政治的な攻撃か

ヒラリー氏は、2009年から13年までの国務長官を務めていたが、SCIと呼ばれる最高機密に分類される文書を、自宅の個人メールシステムで扱ったとされている。これは、国務省の方針に反するだけでなく、違法行為の疑いが持たれている。

ヒラリー氏側は、取り扱っていた文書は、当時、最高機密ではなかったと説明。そして、今回のスキャンダルを「大統領候補に対する政治的な攻撃だ」と指摘している。だが捜査の結果、「違法」という判断が下されれば、ヒラリー氏の大統領への道は閉ざされる可能性もある。

ヒラリー氏がだめなら、ゴア氏? バイデン氏?

では、ヒラリー氏の他に、民主党内に有力な候補はいるのだろうか。バーモント州を代表するバーニー・サンダース上院議員やメリーランド州知事のマーチン・オマリー氏などが名乗りを上げているが、ヒラリー氏ほどの地名度はない。

そうした中で、ヒラリー氏の夫のビル・クリントン大統領時代に副大統領を務めたアル・ゴア氏や、ジョー・バイデン副大統領の出馬の可能性を報じるメディアも出てきた。

ただ、ドキュメンタリー映画「不都合な真実」で名を馳せたゴア氏は、相変わらず環境問題や地球温暖化問題にかかりっきりで、実際に出馬する可能性は低いと見られている。

また、出馬の可能性が取り沙汰されているバイデン氏は、習近平・中国国家主席との関係の深さは有名で、何度も会談を行っているが、「ポピュリスト」と批判されている人物だ。

たとえば、ある会談で、当時副主席だった習氏から、「なぜアメリカはこれほど人権というものに固執するのか」と尋ねられた。すると、バイデン氏は「アメリカの政治家は人権に言及しなければ大統領になれない。人権に言及するのは政治的な理由からだ」と答えた、と言われている。

こうした状況を見ると、ゴア氏、バイデン氏、いずれも、アメリカという世界に責任を持つ大国を率いる人物であるか疑わしい。

ビジョンを示せていない候補者たち

大統領選の候補者たちは、1年以上にわたって国内外のマスコミや国民に選別され、その任にふさわしくないと判定されると、脱落を余儀なくされる。今のところ各候補は、移民政策や政府の盗聴権など、特定の問題に言及しているが、国全体が向かうべき方向やビジョンを示せていない。

米ソ冷戦後、アメリカは一極支配を確立させる代わりに、「共産主義と戦う」という大きな国家目的を失った。それから25年、その一極支配も終わりつつある。「再生」と「衰退」のいずれかを選ぶ時期にきているアメリカだが、正しい未来を指し示せる指導者は現れるのか。

アメリカだけでなく、日本や世界の未来に大きな影響を及ぼす米大統領選に、今後とも注目していきたい。(中)

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