バイデン大統領のアフガン降伏 アフガンを中国に引き渡しただけ!? (前編)【HSU河田成治氏インタビュー】

2021.08.29

出所:FDD Long War Journal

《本記事のポイント》

  • アフガン政府軍が戦わずしてタリバンに降伏したのは?
  • 邦人救助が後手に回った日本の危機管理体制の問題とは?
  • タリバンと組みたい中国の思惑

最高司令官バイデン米大統領の失態がさらけ出されたアフガニスタンからの米軍の撤退。離陸する米軍機にしがみつき振り落とされるアフガン人、カブール空港で犠牲となった13人の米海兵隊員らのニュースは、バイデン政権の権威を失墜させた。と同時に、アメリカ一極によるパックス・アメリカーナは終わりを迎えつつあると、過度な対米依存を戒めた同盟国も多かったのではないだろうか。

さらなる混迷の引き金となりかねないアフガン情勢について、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)で安全保障学や国際政治を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーに聞いた。

(聞き手 長華子)

アメリカ国民は撤退に賛成でも、バイデン氏の幕引きの仕方には疑問

元航空自衛官

河田 成治

プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

──バイデン政権によるアフガニスタンからの撤退をどうご覧になっていますか。

河田:「戦闘には強いが戦争には負ける」という第二次世界大戦以降のアメリカの特徴が今回も出ています。まともに勝った戦争は、湾岸戦争ぐらいかもしれません。イラク戦争は、民主主義が根付いたとは言えませんし、朝鮮戦争も停戦状態で、ベトナム戦争は敗退して撤退しています。

アフガニスタン戦争でも戦闘には勝っても、戦争には勝てないことを世界に示してしまったと言えます。ベトナム戦争後と同じような疲労感がにじみ出ているとも言えるかもしれません。

そもそもアメリカ国民は海外への米軍の介入に積極的ではなくなってきています。米CBSの調査では国民の63%がアフガン撤退に賛成しています。

安全保障の専門家の間でも、簡単に言うと、「直接介入をやめ、当事国でまず頑張ってくれ」というオフショア・バランシング理論がこの10年の趨勢です。

ただし先のCBSの世論調査でも、バイデン政権の撤退手腕を肯定しているのは47%にとどまっています。リベラルのメディアでこの数字ですから、実際の数字はもっと低いでしょう。8月31日の撤退期限を前にして、米市民が現地に置き去りにされる可能性も高く、国民の多くは米軍の撤退の仕方は大失敗だったと考えているはずです。来年秋の中間選挙に響くのは間違いありません。

以下の図を見てください。

出所:FDD Long War Journal

赤色はタリバンの支配地域、オレンジ色は係争地域、グレーの部分はアフガン政府の支配地域です。

今年の4月14日にバイデン大統領は撤退表明を出しました。それ以前の2017年11月から2021年4月の約4年弱の期間は、タリバンの支配地域の赤い部分はそれほど大きく変わっていません。しかし撤退声明後の3カ月間に、タリバンの支配地域が急速に広がり、54%の地域を支配下に収めるに至りました。米軍の権力の空白を埋める形でタリバンは一気呵成に攻勢に出たのです。

アフガニスタン政府軍とタリバンの内戦が激化しつつあったため、米専門家グループは2021年2月の米議会報告書で、米軍が撤退した場合、国家崩壊を招くと警告していました。

それにもかかわらずバイデン氏は莫大な経費がかかるアフガニスタン駐留よりも、1兆ドルのインフラ投資や、3.5兆ドルのバラマキという国内情勢を優先したいとの思惑から、タリバンがアメリカとの「和平合意」を守らなかったのに、撤退を強行したのです。

アフガン政府軍が戦わずしてタリバンに降伏したのは?

──気になるのは米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長が18日、「米軍の訓練を受けたアフガニスタン軍がこれほど早く崩壊するとは誰も予測していなかった」と述べたことです。30万人いるアフガン兵が戦わずして降伏したのはなぜでしょうか。

河: 今回タリバンが首都カブールを攻撃した際、国軍はほとんど抵抗しなかったと言われています。

アフガニスタン軍は汚職の極みにありました。アメリカがアフガニスタンに支援した1兆ドルの資金のうち、多くは政府や軍の要人のポケットに入り、約30万人のアフガニスタン兵士のうち15万人は給料がわずかしか支払われなかったとも言われています。

さらに士気の低さの問題もありました。戦わなければならない相手はイスラム教徒としての信仰を共有する同胞であり、アフガニスタン軍の兵士は「同じイスラム教徒の仲間となぜ戦わなければならないのか」との疑問が拭えなかったようです。これが無血開城の原因です。

このケースは、イスラム国(IS)と対峙したオバマ政権の失敗を彷彿とさせます。当時イラクとシリアでイスラム国の脅威が増す中、中央軍司令官だったのがロイド・オースティン国防長官です。

オースティン氏は、シリア反政府勢力の訓練プログラムにかかわっていましたが、その育成に失敗した上、急速に台頭するイスラム国の脅威を低く見積もって「ISは一時的に成功してもすぐ消え去る存在」だとホワイトハウスに報告しています。オースティン氏はイスラム国の対応への失敗から、何を学んだのでしょうか。

邦人救助が後手に回った日本の危機管理体制の問題とは?

──日本政府の邦人救助への対応も後手に回っているようです。8月17日時点で、G7の中で日本は唯一軍用機を派遣せず、友軍機で大使館職員はドバイへ脱出しています。自衛隊機の派遣も、諸外国より1週間ほど遅れています。

河: 日本政府の危機管理能力の低さが露呈したと言えるでしょう。

外務省は6月25日の時点で、アフガニスタン全土に避難勧告を発出し、邦人への注意喚起を積極的に行ってきました。日本政府には現地の切迫した情報が入っていたはずです。

8月15日にタリバンが首都を制圧すると、欧米諸国は大使館員の退避を決定しました。アメリカは16日、その他の主要国は17日頃には軍用または民間機を派遣して救出作戦を行ったにもかかわらず、日本政府による自衛隊の派遣は間に合いませんでした。

そのため邦人は、友軍機(イギリス)の助けによってUAEのドバイへ退避しました。もし他国に日本人を乗せる余裕がなければ、邦人保護はできなかったことになります。

6月25日から8月15日までの間に、約1カ月半もあったのですから、退避勧告を発出した時点で邦人救出についての具体的な手を打つことができたはずです。それにもかかわらず、「間に合わず後手に回った」というところに日本の危機管理能力の乏しさが表れたと言えるでしょう。

邦人救出のための自衛隊法にも、不備があります。

1994年に自衛隊法が改正され、自衛隊法84条の4に基づいて、「在外邦人等の輸送」が可能になりましたが、「輸送を安全に実施することが認められる時」との条件が付いています。

法案審議時、当時連立政権に加わっていた社会党が「自衛隊の海外派兵に道を開く」として反対する姿勢をとったため、盛り込まれた要件のようです。これらの足かせが機敏な自衛隊機の出動に、大きなブレーキになっていると予想されます。

また政府は、「カブール空港以外は安全地域ではない」と判断しました。日本人は自力で空港にたどり着けなければ、自衛隊機が行っても救出できないのです。

各国が「自国民救出」に向けて市街地にヘリコプターを飛ばし始めている中で、自衛隊が自衛隊法に縛られて邦人救出がままならなくなっています。国民の命を守ることができない自衛隊法は、違憲の疑いがあります。

タリバンと組みたい中国の思惑

──このほど収録された大川隆法・幸福の科学総裁による「ヤイドロンの霊言『世界の崩壊をくい止めるには』」では、タリバンが勇猛果敢にアフガンを制圧できたのは、中国の後ろ盾があったためだったと言及されています。

河: タリバンは、2020年2月のアメリカとの合意で、テロ要員や中国軍などに領土を利用させないと約束しています。しかし実際には、中国が水面下でタリバンに武器や補給物資、経済的な支援を行い、影響力を強化していた可能性は極めて高いです。

その理由は中国にとってタリバンと組む利益が少なくとも4つはあるからです。

まず挙げられるのは、ウイグル独立勢力の抑え込みです。7月末にタリバンの団長格ムラー・アブダル・ガニ・バグダルを含め、代表9人が中国の天津を訪問時、王毅外相は、「東トルキスタン・イスラム運動」が「中国の国家安全保障に対する直接的な脅威」であるとして、「アフガニスタンがテロリストの出撃基地とならないよう、彼らを撲滅すること(も期待したい)」とタリバンによる取り締まりを要望しています。

ウイグルからアフガニスタンにつながるワカン回廊を通って、ウイグル独立勢力が活動するのを抑え込むためにアフガニスタンの協力は必須なのです。

2つ目に、資源の獲得が挙げられます。アフガニスタンは銅をはじめとする鉱物資源が豊富です。中国はこれに関心を寄せ、これまでもアフガニスタンの銅鉱山の開発権の取得をはじめ、多くの投資を行っています。

その他にもインド包囲網や、イランまでつながる一帯一路の強化の面でも、中国にはメリットがあります。もちろんタリバン側にとっても反米や経済的支援という利害から、中国との関係強化にはうまみがあります。(後編に続く)

HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回のアフガニスタン情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。

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タグ: 河田成治  アフガニスタン  安全保障  米軍  タリバン  バイデン大統領  HSU  イスラム国  自衛隊 

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