2011年12月号記事
ギリシャ危機は、いつになったら収束するのだろうか。
10月9日にはついに欧州の大手銀行デクシアが経営破綻に追い込まれた。ギリシャ国債を35億ユーロ保有していたことから信用不安が高まり、資金繰りに行き詰った形だ。
2009年にギリシャ危機が始まってから、初めての破綻だが、デクシア以上にギリシャ国債を保有する金融機関はほかにもあるため、連鎖破綻に到る懸念も出ている。
さらに、ギリシャだけでなくスペイン、ポルトガルの問題も控えている。ここでギリシャ危機を食い止めることができなければ、EUそのものが崩壊しかねない。
ギリシャのデフォルトは避けられない?
そこで、デクシア破綻と前後して、ギリシャ危機の対応が大きく変わりつつある。
これまでは、ギリシャを破綻させないために、各国が協力してギリシャの資金繰りを支援していた。
昨年5月の総額1100億ユーロに及ぶ第一次支援がそうだ。しかし、融資を受けてもギリシャの財政状況は改善せず、結局、今年7月にはユーロ首脳会議で1090億ユーロの追加支援をせざるを得なくなった。
ここに来て、ようやく市場は気づき始める。「これではきりがない」と。
融資をすれば、とりあえずのデフォルト(債務不履行)は回避できる。しかし、肝心の借金の元本自体が一向に減らないため、延々と融資し続けなければならなくなる。
だったら、いっそのこと、デフォルトさせて、損失を確定した方が傷は浅くてすむのでは――。こういう考えが広がるのは時間の問題だった。
そこで、「仮にデフォルトしたとしても金融不安を起こさない」という方向に対策の舵を切り始めることになった。
それが、欧州の銀行への資金注入だ。ギリシャ国債が戻ってこなかった場合、どの程度の損失が生じ、どの程度の資本を増強すれば、経営破綻を回避できるか――それを算定して、あらかじめ銀行の体力を増しておくのだ。
IMF(国際通貨基金)によると、 欧州の金融機関に必要な資本増強額は1千億ユーロから2千億ユーロに上るという。
EU(欧州連合)の行政執行機関である欧州委員会のバローゾ委員長は、すでに各金融機関でどのくらいの資本増強が必要なのかを明らかにするために、厳格な資産査定を実施する考えを示している。
こうした方向性は、10月14、15日に開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも確認されている。
資本増強については銀行界は反発しているものの、ギリシャ危機の連鎖波及はとりあえず回避できる可能性が強まった。その後、下落していたユーロが反発したのは一連の対策を市場が好感したからだ。
EUが抱える構造的問題とは
しかし、欧州危機はこれで終わらないだろう。
むしろ、今回のギリシャ危機はEUの"終わりの始まり"である可能性が高い。
EUが構造的に抱える問題が放置されたままだからだ。
まず、今回のギリシャ危機の対応を通じて、ユーロ圏17カ国が足並みを揃えて迅速な判断をすることが困難であることが改めて浮き彫りになった。右肩上がりでEU経済が成長していればいいが、一度危機に陥ると、 この判断スピードの遅さは致命傷となりかねない。この問題を解決するには、経済統合だけでなく、政治的な統合を果たすか、あるいはEU解体に踏み切るしかない。 どちらも非現実的だ。
次に、ギリシャを初めとする財政危機の根本原因は、増大する社会保障費にあるのは明らかだが、これを減らすための効果的な方法が見つかっていない。ギリシャで公務員の給与の引き下げや年金支給のカットに対して、ストライキやデモが収束しないのは、その象徴だ。
理屈から言えば、社会保障を大幅にカットする以外に解決法はない。しかし、国民は納得しないだろうから、政治的混乱は相当激しいものになるだろう。
それは、福祉国家の幻想が崩れる音である可能性が極めて高い。