ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された意見広告の一部。NATOの東方拡大をめぐり、「もし逆の立場だったら」として、メキシコやカナダ、キューバにロシアの軍事基地が設置される図が描かれている(画像はEisenhower Media Networkのホームページよりキャプチャー)。

《ニュース》

G7広島サミットにウクライナのゼレンスキー大統領が出席したことが話題を呼んでいますが、その一方で、世界各地では「停戦」を求める声がますます強まっています。

アメリカでは退役した軍高官や元政府高官、元大使など国家安全保障の専門家らが連名で、ウクライナ戦争の即時停戦を求める公開書簡をニューヨーク・タイムズ紙に一面広告として打ち出し、注目を集めています。

《詳細》

意見広告はアイゼンハワー・メディア・ネットワーク(EMN)という、「元軍人、元情報機関、元国家安全保障職員といった専門家で構成される組織」によるものです。

EMNはG7広島サミットに先立つ16日、退役した軍高官や元政府高官など14人の連名と共に意見広告を掲載。署名した人物の中には、元駐ソ連米大使ジャック・マトロック氏や、国務長官の首席補佐官などを務めた退役陸軍大佐の名前も含まれています。多大なる犠牲を出し続けているウクライナの戦況を踏まえ、次のように指摘しています。

「この衝撃的な暴力に対する解決策は、一層の死と破壊を保証するような、さらなる武器やさらなる戦争ではない」「アメリカ人として、また国家安全保障の専門家として、私たちはバイデン大統領と議会に対し、特に制御不能に陥りかねない軍事エスカレーションという深刻な危機を考慮し、外交を通じてロシア―ウクライナ戦争を速やかに終結させるべく全力を尽くすよう求める」

その上でジョン・F・ケネディ大統領がかつて述べた、「核保有国は自国の重要な利益を守る一方で、敵対国に屈辱的な撤退か核戦争かの選択を迫るような対立を避けなければならない。核時代にそのような道を選ぶことは、我々の政策が破綻している証拠か、もしくは世界に対する集団的な死の願望であるとしか言いようがないだろう」という発言を引用し、ロシアによるウクライナ侵攻を招いた外交的失策を以下のように指摘しています。

「ウクライナにおける悲惨な戦争の直接的な原因は、ロシアの侵攻である。しかしNATO(北大西洋条約機構)をロシアの国境まで拡大する計画や行動は、ロシアの恐怖心を刺激するものであった。(中略)外交の失敗が戦争につながった」

「ロシアの現在の地政学的不安は、カール12世(スウェーデン国王)、ナポレオン、カイザー(ヴィルヘルム2世)、ヒットラーによる侵略の記憶によってもたらされている。(中略)ロシアはNATOの拡大や国境への進出を直接的な脅威と捉えているが、アメリカとNATOは、これを慎重な備えとしか考えていない。外交では、戦略的共感を持って相手国を理解しようとする姿勢が必要である。これは弱さではなく、知恵である」

意見広告には、「もし逆の立場だったら」として、NATOの東方拡大をメキシコやカナダ、キューバにロシアの軍事基地が設置されることとして描いた地図も掲載(バナー画像参照)。「ウクライナかロシアのいずれかを選ぶ」という考えを否定した上で、いかなる前提条件もつけない「即時停戦と交渉」を要求。「意図的な挑発がロシアーウクライナ戦争を引き起こした。同じように、意図的な外交は戦争を終わらせることができる」としています。

「必要なだけウクライナ支援を続ける」と公言するバイデン大統領に対して、核保有国首脳としての良識的な振る舞いに立ち返り、対露強硬姿勢への反省と方針転換を求める意見です。

《どう見るか》