「夜間経済」を推進する党機関紙

4月13日、中国共産党の機関紙「人民日報」が「継続的な政策努力と管理の高度化 夜間経済が消費を喚起」という論文を掲載し、次のように主張した(*1)。

  • 近年、各地の"夜間経済"(ナイトタイムエコノミー)は、新しいモデル、新しいシーン、新しいビジネスモデルを生み出し続け、産業化、専門化、品質化の方向で発展し、公共消費の高度化という新しいトレンドを反映している。

  • 消費と需要をマッチする上で、特徴的で多様なシーンを持つ"夜間経済"は、都市経済社会の発展に新たな運動エネルギーを注入する。

一方、5月10日付「経済日報」には「夜間経済を発展させるためには大きな努力が必要だ」という記事が掲載され、以下のような叙述があった(*2)。

  • 今年、北京市、上海市、深セン市、雲南省等の4省市が屋台の営業を認め、「24時間眠らない都市地区」を作ろうと呼びかけている。北京市朝陽区王四営村の康華屯、西安市雁塔区甘家寨、成都市柳浪湾などの各夜市が火付け役となった。

  • そもそも"夜間経済"とは何か? その本質は、夜間の消費者の需要を満たし、それに対応する雇用機会を創出することだ。

李克強が提唱した"屋台経済"は避けて表現

さて、興味深いのは、「人民日報」も「経済日報」も"官報"なので、「屋台経済」や「露店経済」を意味する、「地攤(タン)経済」という言葉を、はっきりとは言えないことだ。

どういうことかというと、実はこれは、かつて李克強前首相が提起したタームであり、官報が使用すると、それを握り潰した習近平主席の面子が丸つぶれとなってしまうからである。

そこで、「人民日報」では「小攤」(小さな露店)、「経済日報」では「擺攤」(露店を構える)と言い換えて、お茶を濁している。

同様に、"夜間経済"という言葉を強調し、あたかも「地攤経済」とは異なるというような論法でごまかしている。だが、実際、"夜間経済"は、その時間帯さえ別にすれば「地攤経済」そのものではないだろうか。

目下、中国共産党が"夜間経済"を称賛しているということは、すなわち「地攤経済」を賞揚しているに等しいだろう。

習近平は「屋台経済」を嫌った

李克強前首相が「屋台経済」を提唱したのは、2020年5月、新型コロナの全国的な蔓延を踏まえてのことだった。

同年6月6日、「人民日報」は、「屋台経済」が自由化され、多くの場所で「たくさんの梨の花が咲く」ような光景が見られるようになったとして、以下のように「屋台経済」を賛美している(*3)。

「(2020年)5月28日現在、成都市は臨時道路占拠地点2230カ所、臨時門外営業許可所1万7147カ所、移動販売許可地点2万0130カ所、就業者数は10万人以上増加し、都市の景気が回復した」という。

ところが同日、すぐさま、「北京日報」が、北京には「屋台経済」は似合わないとして、反駁したのである(*4)。

北京は国の首都であり、そのイメージは国のイメージを表している。北京市としては都市の適正な秩序を維持することに傾注しなければならず、「屋台経済」は首都の戦略的位置づけにそぐわない。首都では、調和のとれた住みやすい環境づくりに寄与しないような経済活動を展開してはいけない。したがって、盲目的に「屋台経済」の"流行"に追随しないことが重要である、と強調したのだ。

習主席は李前首相の「屋台経済」を嫌い、当時、北京市のトップだった蔡奇(現、党中央書記処書記)に「屋台」を一掃させている。

結局、屋台に頼る共産党

だが約3年後の今、中国経済回復のため、結局、李強新首相は「李克強路線」を採用せざるを得なかった。

実は、昨年秋の第20回党大会まで、一時「習下、李上」(習近平ダウン、李克強アップ)が盛んに囁かれていた(*5)。だが、最終的に、党大会では「反習勢力」を結集した元老達の力が及ばず、「習上、李下」(習近平アップ、李克強ダウン)という結果に終わった。そして、習主席の"ルール違反"である3期目続投が決まったのである。

けれども、現在、経済政策において、事実上「習下、李上」(習近平ダウン、李強アップ)となっている状況は、皮肉以外何ものでもないだろう(*6)。

やはり、習主席の"毛沢東型"の社会主義経済政策(及び「戦狼外交」の展開)では、中国の景気悪化は避けられないのではないか。

(*1) 4月13日付「人民日報」
(*2) 5月10日付「経済日報」
(*3) 2020年6月6日付「人民日報」
(*4) 2020年6月6日付「新浪財経」
(*5) 2022年10月12日付「万維博客」
(*6) 5月10日付「万維ビデオ」

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アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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