《本記事のポイント》

  • コロナ自粛で「パリ協定」目標ペースの二酸化炭素削減
  • コロナのついでに温暖化対策を推進か
  • 温暖化対策より、エネルギー安全保障が必要

日本では19日に都道府県をまたいだ移動制限が解除され、初めての週末を迎えた。

アメリカやイギリスなど欧州各国では5月中に都市封鎖を解除。多数の感染者を出したイタリアも、6月3日からEU諸国からの入国制限を解除するなど、解除の方向に向かっている。

この移動制限に関して、意外なところから興味深いデータが出た。イギリスのイースト・アングリア大学などの研究者がネイチャー・クライメットチェンジに発表した論文では、5月末までのデータをもとに、「国境をまたぐ移動や外出禁止、自粛要請などの行動制限を年末まで続けた場合」、二酸化炭素の排出量が前年比7%程度減少する見込みだという。

この「前年比7%減少」という数値は、地球温暖化対策のため、二酸化炭素排出量を削減するという、パリ協定で目標とされていた削減ペースとほぼ一致。目標を達成するには、今年並みの削減を10年続ける必要があるという。

ただ、「コロナによる二酸化炭素の排出量減少」の裏で、各国の経済は困窮の極みにある。世界銀行は8日、世界全体の経済成長率がマイナス5.2%まで落ち込み、第2次世界大戦以降で最悪になるという見通しを発表した。

この論文を評した19日付日経新聞も、「パリ協定の高いハードルが改めて浮き彫りになった形」としている。

コロナからの回復ついでに温暖化対策を推進か?

しかし、コロナのおかげで「気候変動対策が前進した」というのだろうか。欧米では、「コロナ禍からの回復」と「温暖化対策」を同時に行う「グリーン・リカバリー」の推進も始まっている。

先述の論文では、移動を控えることが省エネルギーに貢献することが示された。コロナでリモートワークが増えたために通勤が減ったこと、海と陸の交通部門が36%減ったことなどがその代表例だ。特に、航空部門は60%排出量が減っているという。

そのため、各国政府に今後も「移動」を抑える動きがある。フランス政府は、航空大手エールフランスKLMを救済する条件として、国内線の二酸化炭素排出量を2024年までに5割削減するよう提案。近距離線の減便を迫り、高速鉄道に移行することを狙う。

ベルギー・ブリュッセルやイギリス・ロンドン、イタリア・ミラノなどでは、市街地の一般車道を自転車の専用道に転換する計画が進んでいる。公共交通の利用客を減らして市中の感染リスクを下げるとともに、自家用車の交通量を減らして二酸化炭素の排出削減を目指すという。

しかし、地球温暖化対策は本当に必要なのか。本誌2月号でも取り上げたが( 2020-2030 世界を読む Part 2 - 矛盾だらけの「地球温暖化説」 )、過去1万年のデータを見ると、現在の地球は「寒冷化」に向かっているというデータもある。そもそも、今後予想される食料危機に備える場合、温暖化した方が食料増産には有利なほどだ。

温暖化対策は本当に必要か?

日本では、温暖化対策として代表的なのは、発電方法の「脱炭素」化だ。石炭火力発電所の活用や輸出を制限し、石油エネルギーの比率を下げ、再生可能エネルギーへの移行を推進するという。

ただ、再生可能エネルギーの太陽光や風力は、発電量が安定しないのが難点だ。もちろん、潮力や地熱なども含め、様々な発電方法を開発することは重要だが、様々な発電方法の特性を踏まえ、組み合わせて使って初めて、安定した電力供給が可能になる。

季節や時間帯によらず、年間を通じて安価に維持・供給できる電源には、火力や原子力、水力などが適している。特に、「リニア新幹線」が本格的に実用化された場合は、今まで以上の電力供給が必要になる。電力が足りなかったり、電気代が高騰すれば、産業界の生産コストが上がり、新産業を開発する余力はなくなる。国力低下に直結するのだ。

東シナ海でもしものことがあったら……

また、日本周辺の状況を踏まえた場合、エネルギー安全保障の面からも検討が必要である。

21日までに、日本の尖閣諸島周辺の接続水域を、中国の準軍事組織・海警局の船が69日連続航行している。また、20日の全人代においては、海警局が平時から軍と共同訓練できるようにし、有事の際に人民解放軍の指揮下に入るよう法律が改正された。

東シナ海でいつ有事があってもおかしくない。中東から台湾海峡を通るシーレーンの航行に支障が出て、日本に石油が入ってこなくなった時の対策を考える必要がある。電力を自国で賄う際に必要な原発再稼働や高速増殖炉の開発も、進んでいるとは言えない。

「コロナ対策」をやり過ぎれば、国の経済が破壊しつくされてしまう。「温暖化対策」も同様、先進国をあっという間に没落させる効果があることに注意が必要だ。日本が国力を失い、安全保障体制が脆弱になってしまう前に、正しくコロナ後の未来設計をしておく必要がある。

(河本晴恵)

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