中国の強制収容所からの決死の告発 映画「馬三家からの手紙」 レオン・リー監督インタビュー<ロングバージョン>
2020.03.18
©2018 Flying Cloud Productions,Inc.
「馬三家からの手紙」監督
レオン・リー
(プロフィール)
中国生まれ。カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で心理学とビジネスを学び、米コーネル大学でビジネスの修士課程を修得。2014年、デビュー作「人狩り」で中国の違法臓器売買の実態を暴き、世界でさまざまな賞を獲得。現在、中国の清華大学の学生にスポットを当てた最新作「BREAKING」を制作中。
米オレゴン州で2013年、ある家族がスーパーで購入した中国製のハロウィーン飾りの箱から、中国当局の弾圧を訴える手紙が発見された。世界に衝撃を与えたこのニュースをきっかけに制作された本作は、政治犯として中国の馬三家労働教養所に収容され、労働や拷問に耐えつつ手紙を書いた孫毅(スン・イ)氏が、釈放後に危険を顧みず撮影したドキュメンタリーだ。
本作ではレオン・リー監督の指示のもと、孫氏や協力者によって行われた撮影が多用されている。本誌4月号で掲載した監督インタビューのロングバージョンをお送りする。(聞き手:駒井春香)
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──孫さんは激しい拷問を受けても、法輪功の信仰を手放しませんでした。その強さはどこから来ていたと思われますか。
レオン氏(以下、レ): 法輪功の信念が孫毅の強みだったことは疑いようがありません。そして私は彼の姿に、中国の伝統文化の神髄を見出しました。古代中国には、信念を曲げず正しいことを貫く逸話が多くあります。だから中国政府は、孫毅のような人を恐れるのでしょう。
──作中では、馬三家労働教養所での強制労働などのアニメーションが登場します。とてもリアルでしたが、あれは孫さんが描かれたのですか。
レ: 彼のスケッチからアニメを制作しました。彼は小さいころから中国の古典を読むのが好きで、本の脇などで、よく絵の練習をしたそうです。その後エンジニアとなり、設計図を描くようになりました。
馬三家から釈放された時は、全てを忘れたかったそうです。でもこの映画をつくるためには思い出さないといけません。彼は少しずつ思い出しながら、スケッチを描き始めました。初めて見せてもらった時にとても感動し、それを元にアニメーションをつくることにしたのです。
──本作をつくるにあたり、監督が心がけていたことはどのようなことですか。
レ: もっとも自分に言い聞かせていたのは、「孫毅は自分を信頼してくれた」ということです。その信頼に値する価値が自分にあるか。それを常に自分に問いかけていました。孫毅にまた会う機会があれば、「私に機会を与えてくれてありがとうございました。私がやったことに対して満足してもらえたかは分かりませんが、私はベストを尽くしました」と言いたいですし、言える自分になりたいと思います。
──孫さん以外の登場人物もとても印象的でした。孫さんの妻・付寧(フ・ニン)さんは、どのような方ですか。
レ: 彼女はインタビューのたびに、いつも孫毅への文句や愚痴を言っていました(笑)。でもその言葉一つひとつの奥には、口では言い表せない、深い愛情を感じました。
二人は一度、離婚という選択をせざるを得なくなるのですが、収容所にいる孫毅のもとに送った「あなたと別れたい」という手紙を、孫毅はラブレターのように大切にしていました。そのくらい、二人の絆と愛情は深かったのだと思います。
孫毅からの手紙をアメリカで受け取った主婦のジュリーも、典型的なアメリカ人女性でした。中国に対する知識はなく、関心もない。でも手紙を受け取り、「助けてください」と書いてあるなら、助けなければいけない。会ったことがない手紙の書き手と、ある意味での「約束」をしたかのように、彼女は感じたそうです。
正しいことを行うのはとても単純なことで、「やりたいか、やりたくないか」という問題だと私は思います。ジュリーは今、カナダのトロントのプレミア上映や他の上映会でも何度か参加してもらいました。今はとても中国の事情に精通した人になりました。ジュリーの子供たちも、中国で何が起きているかを友達に話しているそうです。
ジュリーと孫毅はお互いに、この縁を「運命ですね」と口にしていました。二人が会った時は、まるで旧友のような、強い絆を感じたそうです。すぐに打ち解け、家族や子供のころのこと、趣味などについて、さまざまな話が止まりませんでした。
©2018 Flying Cloud Productions,Inc.
──馬三家で、孫さんら収容者を弾圧した側の人たちも登場していました。彼らにとっては一種の「改心」と言えるインタビューだと感じました。
レ: 孫毅とスカイプで映画の計画を話し合っている時に、孫毅が突然「いいアイデアがある。馬三家に戻って、看守たちにインタビューをします」と言ったのです。私は驚き、「それは危険じゃないですか」と言いました。看守は信頼できません。「孫毅が戻ってきた」と通告するかもしれない、と。でもこれは映画のためだけではなく、看守の贖罪、懺悔できる唯一の機会だとも感じました。
映像をもらった時に、「これを本当に映画に使っていいんですか」と尋ねました。看守の一人は、「人生で初めて真実を語りました。怖いものはありません」と話したそうです。看守たちも、人生のあらゆる地獄を見てきた人でした。孫毅はその姿で、看守の心を改心に導いたのです。そこに至るまでに、孫毅がどれだけ苦しんで拷問に耐え、信念を貫いたのかを考えると、胸がいっぱいになりました。
孫毅は、周りの人をどんどん変えていく力を持っていました。私自身もそうです。本作のような映画をつくるのは孤独な仕事で、常に「これをする価値があるだろうか」と自分に問いかけています。結果はすぐに見えるものではありません。でも孫毅から、忍耐力が大切であると教わりました。そして、純粋な気持ちと強い信念があれば、不可能はないことを学んだのです。
孫毅に出会ってから、辛い時や怒りを感じた時は孫毅を思い出すようになりました。「孫毅が通った経験に比べたら何でもない。大したことじゃない」と考えられるようになったのです。今は、このように彼が残してくれたものをきちんと伝えるという使命感や責任感を感じています。
──本作に込めた思いや、観客に期待することはありますか。
レ: 孫毅はヒーローになる気はまったくなく、妻と普通に暮らす日常を望んでいました。世界の多くの人も、人権問題より日常が大事でしょう。でもハロウィーンの飾りという「日常」に忍ばされた手紙が、中国の人権弾圧の実態を明らかにしました。
手紙を受け取ったジュリーが公表することを選んだ結果、強制収容所の実態に国際的な非難が集まり、馬三家労働教養所は閉鎖。彼女が歴史を変えました。しかし中国では今も弾圧が行われ、苦しむ人が多くいます。本作を観た方には、もしも強制収容所から手紙を受け取ったら、自分ならどうするかを考えてほしいと思います。
──監督がイメージする理想の中国や世界は、どのようなものでしょうか。
レ: それがすぐに現実になるとは思えないのですが、ただ中国で起きてほしくないこと、世界で起きてほしくないことははっきりしています。
中国の大きな問題のほとんどは、中国共産党政権から発生しています。中国共産党がなくなれば、かなりの問題がなくなると思うのです。彼らは世界のさまざまな国に侵入しています。ビジネス、教育界、政治界、エンターテインメント……世界の多くの国に悪い影響を与えているのです。
一例を挙げると、コロナウィルスの問題があります。発生からほぼ1カ月間、コロナに関する情報は中国政府により隠蔽されていました。さらに中国が出す感染者数と死者数の公式な発表は、氷山の一角に過ぎないと言われています。中国共産党政権により、世界中が迷惑を被っています。彼らがいなくなれば、世界はもっとよくなるでしょう。
──監督は中国の臓器売買や強制収容所などを題材にした作品で、世界に問題提起をされています。その情熱や信念はどこから来ていますか。
レ: 孫毅のような人に会うことができるのは、とても光栄なことです。彼らから刺激を受け、「自分も何かできるんじゃないか」と思えるのです。
そして現在の中国は、本当の中国の姿ではないと感じます。本来の中国文化ではありません。古代の中国は、徳が高く、正直で、自分が約束したことは死んでも守る。そういった文化を持っていました。それが中国の未来でもあると思います。そうなるために貢献したいという思いが、私の原動力です。(談)
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インフォメーション
- 【公開日】
- 2020年3月21日より新宿K's cinemaほか全国順次公開
- 【配給等】
- 配給:グループ現代
- 【スタッフ】
- プロデュース、監督:レオン・リー
- 【キャスト】
- 出演:孫毅、ジュリー・キース、江天勇ほか
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