11月20日より全国公開の映画「滑走路」の追加舞台挨拶が28日、テアトル新宿にて開催された。

突然この世を去った歌人・萩原慎一郎による「歌集 滑走路」を原作に、オリジナルストーリーとして紡がれた本作。水川あさみさん扮する翠(みどり)、浅香航大さん扮する若手官僚・鷹野(たかの)、そして新人・寄川歌太さんが扮する中学二年生の学級委員長。それぞれ"心の叫び"を抱えて生きる3人の人生が交錯する様を描く。

舞台挨拶終了後、大庭功睦監督と、学級委員長と大きく関わるキーパーソン・天野役を演じた木下渓さんに作品について聞いた。

(聞き手、駒井春香)

◆ ◆ ◆

──作中では、水川あさみさんが演じる翠たちの時代と、寄川歌太さん演じる学級委員長や木下渓さん演じる天野の時代が複雑に交差しています。このような手法を使われた理由をお聞かせください。

大庭功睦監督(以下、大庭監督): 過去を過去のものとして、封印しないといいますか……。今、僕らが生きている現在は10年前の未来だし、10年後からすると過去です。現在のみを生きていると思いがちですが、過去と未来も同時に生きていると思うんです。

 

そうやって「今」を捉えたときに、人生が凝縮されるというか。「あの時こうなってなければ、今はこうなっていなかった」という振り返り方もできたりはするんですが、そういう時間の重なり合いの中に生きているということを、映画ならでは、映像ならではの構成でつくれないかと思いました。

 

過去を過去のものとして封印しないし、未来を今の自分と関係ないものとして、切り離して考えない。全て重なり合った時間の中に生きている、という感覚で。そういうことを表現するのに、映像ってすごく向いているんですね。時間と空間というエクスキューズの中を繋げていくという。

 

本作のテーマも、そこと重なる部分がありました。そういう時間の流れのようなものを裏テーマのように表現できればいいなと思い、こういう構成にしました。

 

──木下渓さんを天野役にキャスティングされた決め手についてお聞かせください。

大庭監督: 渓ちゃんって、子役って言っちゃっていいんだよね?

 

木下渓(以下、渓): 子役です(笑)。

 

大庭監督: (笑)あえて子役って言葉を使います。あくまで僕の判断ですが、子役の子は、芝居を「言葉」で覚えている子と、「身体」で覚えている子がいて、たいがいの子は言葉で覚えているんですね。悲しい時はこういう表情をして、眉をこう寄せて、目じりを下げて、うつむきがちにしたら悲しく見えるでしょ、というような。それは全部「言葉」なんです。

 

でも、「身体」で悲しさを表現しようと思ったら、顔が全然変わらなくても、例えば肩を少し落とすだけで表現できたりする。それは自分の中に感情を宿らせないとできなくて、そういうことができる子はなかなかいないんですが、渓ちゃんはできていた。それが才能なのか、何かは分からないのですが。それが一つです。

 

渓: 照れますね(笑)。

 

──木下さんにとって、大庭監督はどんな存在でしたか。

渓: 一緒に演技をしてくれているような監督さんでした。表現が難しいんですが、相談しやすいのもすごくありましたし、自分の「こうしたい」という思いを表現しやすい現場でもありました。一緒にやっている感じ、イエーイみたいな(笑)。

 

大庭監督: (笑)。

 

渓: 監督がバディーみたいな感じで、自分も素の演技を出せる感じでした。

 

──いじめや不登校など、木下さんの世代の方の身近な問題を描いていますが、どんな気持ちで演じられましたか。

渓: いじめとか、近い問題ではありますが、自分の回りではあまりそういうことはなくて。すごく平和に生きてるんですけど、すごく大事なことなので、自分が関わっていないことでも、あまり簡単に考えちゃいけないなって。一番重要視しないといけないところだと思って、とても丁寧に考えて演じました。

 

──天野はとても重要な役どころですが、演じると決まったときのお気持ちは?

渓: 一番初めは素直にうれしかったです。実際に天野という役を演じていくうちに、素直さやポジティブさ、明るい気持ちなど、天野がいることで、周りがどうなるのかというところが大切だと思えてきて。天野が周りに与える影響を大事に考えていました。

 

大庭監督: 天野は、彼女ひとりに背負わせるのは酷かな、というのはあるんですが、本作には、苦しさや生きづらさ、悩みを抱えた人がたくさん出てきます。そんな中で、太陽のような存在でいられるのが、彼女が演じた天野という女の子しかいないんですね。天野は天野で親との関係で苦しんだり、好きな絵を描き続けられないなど、悩みを抱えてはいるんですけど、それよりも相手の幸せを尊重することができるような、慈愛みたいなものを持っていて。

 

そういうものは、誰かに言われて身につくものではないと思うんです。それを自分の中に持ち得ているありさまを渓ちゃんが、すごく自然に演じてくれたと思っていて。本作に、明るい側面をもたらしてくれています。

 

今思いついたんですが、ラストカットの空撮は、絶妙ないいタイミングで撮れたと思っていて。曇ってはいるんですが、画面右奥のほうから、光が差しているんですね。それが川面に当たって、少しほわっと明るくなる感じがあって。それが、天野と学級委員長の関係性を表しているような気がするんです。学級委員長が曇り空だとしたら、太陽が天野。ふたりと空のあり方が、レイヤーになって同時に表現されている風にも捉えられると思うんです。……今、すごくいいこと言ったね(笑)。

 

渓: (笑)本当に、ありがとうございます。

 

──コロナ禍での公開となりましたが、観られる方にメッセージをお願いします。

大庭監督: 映画館で映画を観る行為が、新型コロナウィルスが強いている、「人と人との距離感」をこじ開けようという、ネガティブな効果と逆行することだと思うんです。見知らぬ人と同じ空間に集って、同じ画面を見上げて、あるシーンでは一緒に息をひそめ、一緒に涙したり、安堵のため息を漏らしたり。そういう一体感をもたらしてくれるのが、映画を観るという行為だと思っています。

 

念のため言うと、映画館の換気はとてもしっかりされていて、今は皆マスクをして前を向き、しゃべったりしないので安全なんですが、今だからこそ映画館に集って、他者と一つの映画を観てエモーションを共有する機会じゃないかと思うんです。それが、人と人とのつながりを描く「滑走路」だといいなと思います。

 

渓: さっきの舞台挨拶でも言ったんですけど、この映画で、自分の滑走路を見つけてもらえたらなと思っています。何か考えるきっかけになればいいな、自分がそういう演技をできていたらいいな、と。この映画を観て何も考えないという人はいないと思いますけど、人生の出発点になるようなきっかけが、この「滑走路」の中にあると思います。(了)


「滑走路」監督

大庭 功睦

(おおば・のりちか)1978年生まれ、福岡県出身。熊本大学文学部、日本映画学校(現・日本映画大学)映像科卒業。「太陽」(2016)、「シン・ゴジラ」(16)、「マチネの終わりに」(19)など、アシスタントや助監督として数多くの映画・テレビドラマの現場に携わる。10年に自主製作した染谷将太主演の映画「ノラ」は第5回田辺・弁慶映画祭にて市民審査員賞、染谷将太が第11回TAMA NEW WAVEにてベスト男優賞を受賞。18年に自主制作した「キュクロプス」は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018にてシネガー・アワード、北海道知事賞を受賞。第18回ニッポン・コネクション&第15回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭国内長編コンペティションでも正式上映された。

 

女優

木下 渓

(きのした・けい)2006年生まれ、神奈川県出身。17年に「ニュースター・プリンセス・オーディション」でグランプリを獲得。テレビドラマ「太陽の子」(20/NHK)、映画「鈍色のキヲク」(19)、「世界から希望が消えたなら。」(19)などに出演。「世界から希望が消えたなら。」で第7回アンタキヤ映画祭最優秀女優賞を受賞。

 

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【ストーリー】

厚生労働省で働く若手官僚の鷹野は、激務に追われる中、理想と現実の狭間で苦しんでいた。ある日、陳情に来たNPO団体が持ち込んだ"非正規雇用が原因で自死したとされる人々のリスト"の中から自分と同じ25歳で自死したひとりの青年に関心を抱き、死の真相を探り始める……。

 

【インフォメーション】

【公開日】
全国公開中
【配給等】
配給:KADOKAWA
【スタッフ】
監督:大庭功睦
【キャスト】
出演:水川あさみ、浅香航大、寄川歌太、木下渓、池田優斗、吉村界人、染谷将太、水橋研二、坂井真紀ほか
© 2020「滑走路」製作委員会


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