岩手県矢巾(やはば)町で中学2年の男子生徒が、いじめを示唆する内容をノートに記した後、自殺した問題について、同町の教育委員会は、いじめの有無を調査する第三者委員会を設置することを決めた。

問題のノートは、一日の反省などを記す「生活記録ノート」で、毎日担任に提出するもの。この中で男子生徒は、「そろそろ休みたい。氏(死)にたい」「もう市(死)ぬ場所はきまってるんですけどねwまぁいいか」などと書き残していた。

2年前の「いじめ防止対策推進法(いじめ防止法)」の施行を受け、生徒が通っていた中学校では、いじめを早期に発見するため、アンケートを年に3回実施したり、担任が先のノートを活用する方針を示していた。しかし、男子生徒の担任からの報告はなく、学校側は「いじめが起きていたとの認識はなかった」と説明している。

隠ぺい体質はなくなっていない

SOSが発信されていたにもかかわらず、自殺に至った今回の事件に対し、ネット上では、「大津市中2いじめ自殺事件」の発生から4年経つ今も、教育界はいじめへの対応が不十分であるとし、批判する投稿が目立つ。中には、学校側の隠ぺい体質を問題視する声もある。

これについて、6年間で5000件以上のいじめ相談を受けるいじめ解決の専門家、一般社団法人「いじめから子供を守ろうネットワーク」代表の井澤一明氏は、次のように話す。

「岩手県は、昔ながらの隠ぺい体質が特に色濃く残っている地域です。『声をあげたり、波風を立てる者が悪だ』という空気があります。これまで相談を受けたもののうち、岩手県で解決できなかったいじめ事件は2件ありましたが、ひとつは県の教育委員会が出て来ても『証拠がない』の一点張り、もうひとつは、市議会議員を巻き込んでもなあなあにされてしまいました。今回の事件の背景には、こうした体質があると思います」

隠ぺい体質は、「いじめ防止法」が施行されても変わっていないのか。

「日本全国を見れば、いじめ防止法ができてから、教師や校長の意識は確実に変わってきています。私たちに協力してくれている校長先生からは、ある教育関係者の集まりで、自分の学校の問題を赤裸々に話して、『みなさん知恵をかしてください』と発表する人もいたと聞きました。ただ、私が教師向けの講演をしていて驚くのは、先生たちが『いじめ防止法』の内容をほとんど知らないということです。『いじめ防止法』には教師に対する罰則がないことにも問題があると思います」

再発防止には学校の姿勢が変わることが重要

再発防止において重要なことは何か。

「学校の姿勢が変わることが何より重要です。今回、学校側は『いじめを認識していなかった』と言っており、担任の先生の責任が問われていますが、学校の空気として、言い出せない雰囲気ができていたのではないかと思います。担任の先生も周りに相談できずに苦しんでいたのではないでしょうか。校長が変われば学校は変わります。このような痛ましい事件を防ぐためにも、隠ぺい体質を変えなければなりません」

井澤代表は他にも、子供たちに「転校」や「警察に通報する」という選択肢があると知らせることや、「いじめは悪である」という善悪の価値判断を教えていくことなどを訴えた。

いくら「生活記録ノート」で教師と生徒が交流しても、アンケートをとっても、事なかれ主義、隠ぺい体質のままではいじめはなくならない。担任の教師だけの責任にして“トカゲのしっぽ切り"で終わらせるのではなく、こうした体質を根本から変えていく対策が必要だ。(紘)

【関連サイト】

一般社団法人「いじめから子供を守ろうネットワーク」

http://mamoro.org/

【関連書籍】

幸福の科学出版 『教育の法』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=49

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2015年2月13日付本欄 道徳の教科化、まだ踏み込みが足りない(前編)

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2015年2月14日付本欄 道徳の教科化、まだ踏み込みが足りない(後編)

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2014年5月号記事 【最終回】いじめは必ず解決できる

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