シンガポールで開かれたアジアインフラ投資銀行(AIIB)の第5回首席交渉官会合において、創設メンバーの57カ国が設立協定案に合意し、以下の概要が明らかになった。

  • 資本金の額を、予定されていた500億ドル(約6兆円)から、倍の1000億ドル(約12兆円)に増やす方向。
  • 中国の出資比率は、26~29%で調整 (当初は約50%だったが、影響力が大きくなりすぎると懸念する他国に譲歩し、3割に落ち着いた) 。
  • 重要な投資案件については「議決権の75%以上の賛成が必要」という条項を設けることを検討するため、中国が実質的な「拒否権」を持つことで合意した。
  • 理事には中国の金立群(ジン・リーチュン)元財政次官が就任する見込み。ただし、理事は本部の北京に常駐しないことで一致したため、融資案件を十分に検討できなくなる恐れがある。

予想通り、中国が最大のAIIBの出資国として大きな権限を握ることが確認された。また、AIIBは投資の審査基準が不透明であるため、不正や乱開発、中国海軍の寄港地への援助などに使われる恐れがあることは日米などから指摘されている。

加えて、中国の過去の開発を振り返ると、新しい道路やダム建設などによって強制退去させられた近隣の人々の抗議をはねのけ、住民の権利や環境問題を無視することもしてきた。中国の開発スタイルでは、多くのアジアの発展途上国の国民と衝突を起こす可能性が高い。

現地の人を育てながら支援を行う日本の政府開発援助

一方、折しも日本では、安倍首相が公的資金によるアジア向けインフラ投資を約1100億ドル(約13兆3000億円)に拡大することを発表した。AIIBの設立を目指す中国に対抗する狙いがあると見られる。首相は演説で「日本の技術を単に持ち込むのではなく、人を育て、しっかりとその地に根付かせる。これが、日本のやり方です」と発言した。

この発言を裏付ける1つのエピソードがある。

2005年に麻生太郎氏が外務大臣としてインドを訪問し、日本の政府開発援助(ODA)で建設された地下鉄を視察した。地下鉄の駅で、日本とインドの国旗とともに「日本の援助で作られた」ことが分かる表示を発見した麻生氏が、地下鉄公団の総裁に御礼を述べた。すると地下鉄公団の総裁は逆に次のように述べ、改めて日本に感謝したという。

「我々がこのプロジェクトを通じて日本から得たものは、資金援助や技術援助だけではない。最大の贈り物は、日本人の働くことについての価値観や労働の美徳であり、日本の文化そのものだ」

日本から派遣された技術者は、始業時間や納期の厳守を徹底して現地の技術者に教え、予定より早くプロジェクトを完成させた。また、ストップウォッチを持った日本人技術者が地下鉄を時間通りに運行する訓練を徹底した結果、数時間遅れも日常茶飯事のインドの公共交通機関の中で、地下鉄だけが現在も数分の誤差で運行されているという(麻生太郎著『とてつもない日本』新潮社刊より)。

急速に中国資本が投下されているアフリカなどでは、中国依存を高めている国も多い。自立を促すのではなく依存を高めるような支援が続けば、その国は、中国の言いなりにならざるをえない属国となりかねない。それに対して、日本の開発援助には、現地の人を育て、真の意味でその国の未来に貢献しようとする精神性がある。日本こそ、アジアの途上国の豊かな未来を創るインフラ整備を進めることができるのではないか。(真)

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