ニューヨーク市場で28日、原油価格が10.2%も暴落し、1バレル66.15ドルとなった。6月のピーク時の価格が115ドルであったため、その落ち込みの速度に市場は驚いている。

ここ数日の原油価格の暴落傾向は、27日に、石油輸出国機構(OPEC)がウィーンで開いた会議で、原油生産量を減らさないことを決定したことに端を発している。

いまアメリカはシェールブームに沸いているが、66ドルという価格はすでにいくつかのシェール田が利益を得られる値を下回っている。そのため、欧米メディアの一部では、1バレル15~20ドルで原油を生産できるサウジアラビアが、アメリカに"価格戦争"を仕掛け、シェール産業をつぶしにきていると見る。

しかし一方で、原油の低迷は、経済の活性化につながるため、シェールブームの崩壊以上に経済のプラスになるという意見もある。アメリカ経済の69%が消費によって成り立っており、一部の試算では、原油価格が下がった影響で6月から現在にいたるまで1世帯あたり500ドル以上もの支出が抑えられたと言われている。また、企業も物資の流通に石油を使うため、石油価格の低下は、消費減税と同じような好影響をもたらすのだ。

先のOPEC会議では、イランやベネズエラと、サウジアラビアの間で意見が分かれた。前の2国は、原油価格の暴落による収入減が自国の財政を圧迫するため、サウジアラビアに対して、原油生産量を減らし、価格を高騰させるよう要請した。

イランは核開発問題で欧米の経済制裁を受けており、原油価格の暴落が同国の経済に与える影響は甚大だ。同国は、財政の収支を合わせるために、1バレル100ドル以上の価格を必要としている。

ベネズエラの状況はさらにひどく、社会主義政策のため、すでに困窮していた財政は、原油価格の暴落で破綻寸前である。一部の識者は、同国が12カ月以内にデフォルト(債務不履行)を起こすとさえ予測している。

しかし、サウジアラビアは自国の原油市場のシェアが減ってしまうことを理由に、イランとベネズエラの価格を高騰させる要請を拒否。結果、OPEC会議では結論が出ず、現状維持となった。サウジアラビアは大量の外資準備金を貯めているため、原油価格の低迷が多少長引いても持ちこたえられるという背景がある。

また、OPEC加盟国ではないが、ロシアの経済・財政も原油価格の低迷で苦しんでいる。ロシア政府の財政の45%は石油産業にまかなわれており、同政府の2015年度予算は1バレル100ドル辺りを前提としている。このため、ロシアも自国の外資準備金から不足分を補うか、予算を縮小させるかの選択に迫られる。

以上、原油価格が各国に与える影響だが、これを地政学的な視点から見ると、また違うものが見えてくる。日本のエネルギー政策も、こうした動きと常に連動していることを自覚すべきだろう。次回は、原油安とシェールオイルの問題を、地政学の観点から分析する。(中)

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