イギリスからの独立を問うスコットランドの住民投票は、反対票(55.3%)が賛成票(44.7%)を上回ったことで独立が回避され、引き続きイギリスに留まることになった。

テレビや新聞では、歓喜に沸く反対派の人々の様子が伝えられる一方、悲しみにくれる賛成派の人々の声も伝えられている。だが、今回の住民投票を振り返ると、独立賛成派の人々が、「本当の意味では、独立を求めていなかった」という逆説的なものが見えてくる。

「独立賛成」の旗振り役だったのは、スコットランド行政府のサモンド首相。サモンド氏は、地域政党「スコットランド民族党」の党首も務めるが、この政党は、自由よりも平等に価値を置く「社会主義」政党である。同党は、北海油田から得られる収入を独占し、北欧のような高福祉国家をつくることを目指してきた。

今回の投票で、独立賛成派の人々は、「イギリス政府は、高福祉や非核化を求める人々の声を無視し続けてきた」というサモンド氏らの主張を支持し。だが、その一方で、欧州連合(EU)が存在しなければ、独立の機運はここまで高まらなかったのではないか、という見方がある。

実際に、独立賛成派の人々は、税金を集める徴税権や社会保障の支出などに関して、スコットランドが独自で判断できる権利の拡大を主張していた。だが、心配される国防については、「(スコットランドが独立しても)国家の安全保障はEUに守られ、NATOに加盟すれば、米国を含む集団防衛の傘に入る」(20日付産経新聞)というわけだ。

単純化して言えば、イギリスに依存するよりも、EUに依存した方が、スコットランドの人々は楽に生活できるということである。

スコットランドのクライド海軍基地は、イギリス唯一の核兵器を積んだ原子力潜水艦が母港としており、非核化が実現してしまえば、西側諸国の戦略は大きな変更が求められる。ある地域の人々が目先の利益を追い求めることで、その地域のみならず、周辺地域の平和が脅かされることがある。日本で言えば沖縄がそれに当たるだろうが、果たして、今回、賛成票を投じた人々は、こうした大局的な視点を持っていたのか。

スコットランドでは、サッチャー政権下の1980年代、コストがかかっていた多くの国営炭鉱が閉鎖され、失業者が急増したという苦い思い出がある。そのため、サッチャー元首相が亡くなった昨年4月、スコットランドで発行されているデイリー・レコード紙は一面で、皮肉を込めて「スコットランドは決してサッチャーを忘れない」という見出しを立てた。

だが今、スコットランドに必要なのは、サッチャー氏の思想の中核でもある「自助努力の精神」をモットーにした真の意味での「小さな政府」の実現ではないか。スコットランドの独立を求める人々は「独立」を求めているように見えて、その実、政府に依存する「大きな政府」を求めているのではないか。それは、まさにサッチャー氏が改革しようとした「ゆりかごから墓場まで」という「イギリス病」そのものである。

スコットランドは、自由主義経済の始祖にあたる経済学者のアダム・スミスを生んだ地でもあるが、これから同地の人々は、その「経済学の父」が喜ぶようなスコットランドをつくりあげていくべきだろう。(格)

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