中国当局がアニメを使って「民族間対立の緩和」を訴える。中国は、新疆ウイグル自治区で続く、漢族とウイグル族の対立を文化面から緩和するため、ウイグル族の姫を主人公にした3Dアニメーション「天香公主」の製作に乗り出したと、このほどCNNなどが報じた。2015年にテレビで放送し、翌年には映画化するという。

主人公の少女は、18世紀にウイグル族の姫が清朝の皇帝と恋に落ち、輿入れしたという有名な"伝承"を題材にしている。CNNに製作会社幹部は、「(中国でこの姫は)文化を横断する対話に貢献してきた存在とされている」と語った。また同幹部は、新疆ウイグル自治区を訪ね、ウイグルの自然の美しさや文化の豊かさに感動したと語り、「文化の普及を手助けしたい」と意気込みを見せている。

ただ、この同じ物語が、ウイグルでは「姫は無理やり妻にさせられた際に、皇帝との関係を拒絶し、皇帝の母親に殺された」と伝わっていると、CNNは指摘する。このアニメは、むしろウイグル人の神経を逆なでするものになりそうだ。

中国では、テレビなどのメディアは共産党の支配下にあり、政治的に利用されることが多い。これまでも漢人を対象に、事実に反する"凶悪な日本軍人"が登場する反日ドラマを放送し続けてきた。今回のアニメには、中国への出稼ぎ政策をウイグルの子供たちに受け入れさせようという意図があるとみられる。

本誌6月号で、中央アジア研究所所長のトゥール・ムハメット氏が指摘するように、中国政府はウイグル人の未婚女性を毎年、大量に中国本土へ出稼ぎに連れ出している。漢人の入植と合わせて、ウイグル人の人口比率を下げ、漢人の人口比率を70%まで上げて、ウイグル人の独立運動を根絶させようとしている。こうした政策により、1949年には漢人の人口比率は3%だったが、現在は40%にまで高まっている。

また、「世界ウイグル会議」のホームページによると、この間、ウイグルに入植した漢人には出産が精励されたが、ウイグル人には「計画出産」が強制され、2005年には「15年間で300万人」もの胎児が堕胎されたと発表している。9カ月の胎児であっても強制堕胎されたという。

中国が行っている「民族浄化」という名の人権弾圧を見れば、今回の「民族間対立の緩和」のためのアニメなど、プロパガンダに過ぎないことは一目瞭然。開き直りもいいところだ。子供の娯楽を洗脳の道具に変える、中国の新たなソフトパワーには要注意である。(居)

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2014年6月号記事 ウイグル人弾圧が正当化される中国/東トルキスタンの過去と現在 - ザ・リバティ論壇

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2011年12月24日付本欄 中国は孫子や孔子の思想を「ソフトパワー」にできるか(前編)

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