安倍晋三首相とオバマ米大統領の首脳会談から一夜明けた25日、当初の予定より大幅に遅れて、日米共同声明が発表された。注目されていた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉については大筋合意には至らず、「大胆な措置を講じる決意」と中途半端な内容となった。だがTPPは、経済面における対中国包囲網であり、事実上の「安全保障政策」である。安倍首相は、今回、大局的な判断ができなかったと言える。

今回の首脳会談では、尖閣諸島についてオバマ大統領が初めて「日米安全保障条約第5条の適用対象となる」と明言するなど、「アメリカは、しっかりと日本を守ってくれる」という期待感を高めた。

しかし、24日に予定されていた共同声明の発表を遅らせる原因となった、TPP交渉については決着がつかず、「解決に向けた道筋を特定した」という表現を加えるだけで精一杯だった。

この問題をめぐっては、日本は従来から、コメ、麦、牛・豚肉、砂糖、乳製品の農産品を重要5項目として関税を守ることを主張。これに対し、アメリカは原則的にあらゆる品目の関税をなくすべきだと主張。今回の協議でも平行線をたどった模様だ。

安倍政権が、こうした強硬な姿勢を取り続ける背景には、今月27日に投開票される衆院鹿児島2区補欠選挙で、農業団体の支援や農家の票を取り込みたいという事情が透けて見える。補選で勝利して、少し時間をかけてから、譲歩するつもりか。それとも、消費税3%アップした後の影響を見計らって、それを相殺するように見せた形での譲歩案を考えているのか。

だが肝心なのは、このTPPは単なる「経済」の問題ではなく、「安全保障」の問題でもあるという視点だ。本欄でも再三、指摘してきたが、TPPで日米を中心とする自由貿易圏を形成することによって、「対中国包囲網」の役割を果たせる。

TPPには、「知的財産権の保護」「人権重視」「環境保護」などの概念が入っているが、こうした自由や平等の価値観のもとに、日米やほかのアジア・太平洋の国々が結びつくことで、自然と「中国外し」の状況が生まれる。中国の海洋進出の危機にある東南アジア諸国及び日本にとって、TPPは自国の安全保障を確かなものにする、重要な枠組み(フレームワーク)だ。

沖縄県・尖閣諸島周辺の海や空をはじめとした、中国の軍拡が目の前に迫っている今、このTPPは、一部の専業農家に補償してでも、のまなければいけない「安全保障」なのである。

日米間のTPP合意見送りを受け、幸福実現党(釈量子党首)は25日、声明を発表。「TPPは日本の成長力の強化はもとより、日米主導の経済秩序の構築による対中抑止の狙い」があるとし、懸念される国内農業への影響については、「TPP参加を通じて農業の生産性を高め、輸出産業化を図ることで日本農業の未来も開けるのであり、食糧安全保障の観点から存続させるべき農家には、補助金で対応すればよい」とし、日本政府に国益を見据えたTPP交渉の早期妥結を要請した。

現代は、政治判断を誤れば、国が大きく傾く不安定な時代に入った。安倍政権には、党利党略や目先の選挙結果ばかりを追いかけるのでなく、常に、国民の生命、財産、安全をかけた判断が求められる。

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2012年1月号本誌記事 TPP参加で輸入大国の責任を果たせ "Newsダイジェスト"

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